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『悲しいほどお天気』―ユーミンのアルバム(by 3 songs) [ユーミン]

A面1曲めに置かれた「ジャコビニ彗星の日」を聴きながら、ぼくは長いあいだユーミンって彗星と流星を混同してると思ってた。
タイトルには「ジャコビニ彗星」とあるのに、歌詞では「♪淋しくなればまた来るかしら 光る尾をひく流星群」となっていて、「尾を引く」のはふつう「ほうき星=彗星」だからである。
ところが今回記事を書くのにあたってネットでいろいろ調べてみると、「ジャコビニ流星群」はジャコビニ・ジンナー彗星を母天体としているらしい。
ぼくはけっこう彗星とか流星群とか好きで、97年に話題になったへール・ボップ彗星なんかもずいぶん観察したものだけれど、これはまったく知らなかった。
ただし、歌詞にもあるように、この72年10月はほとんど流星が観察されなかったようだ。

それはさておき本題に入ろう。
『悲しいほどお天気 The Gallery in My Heart』は1979年12月1日にリリースされた8枚めのオリジナル・アルバムで、『オリコン』では最高位6位を記録した。

ジャケットは白っぽいシャツを着て眉の辺りで揃えた長い髪のユーミンが印象的なシングル・スリーヴ。
光沢のないさらりとした手触りのテクスチャー仕様になっている。

10.jpg


歌詞の印刷されたカスタム・インナーは金茶とサーモンピンクっぽい配色で、美術科卒業のユーミンらしい洒落たデザインだ。

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バック・カヴァーを見ると、アルバムのタイトルにも収められた各曲にもすべて英語のタイトルがついている。

12.jpg

収録曲の日本語タイトルと英題は以下のとおり。

Side A
1 ジャコビニ彗星の日 The Story of Giacobini's Comet
2 影になって We're All Free
3 緑の町に舞い降りて Ode of Morioka
4 Destiny
5 丘の上の光 Silhouettes

Side B
1 悲しいほどお天気 The Gallery in My Heart
2 気ままな朝帰り As I'm Alone
3 水平線にグレナディン Horizon & Grenadine
4 78
5 さまよいの果て波は寄せる The Ocean and I

さて、『悲しいほどお天気』から選んだ3曲のまず1曲めはA-2「影になって」。
どうしても歌詞が気になってしまうユーミンの曲のなかで、これは楽曲のよさだけで何度でも聴いてしまう1曲だ。
左チャンネルでリズムを刻む松原正樹のエレクトリック・ギター、右チャンネルでオブリガードを奏でる吉川忠英のアコースティック・ギター、間奏のまったかさんのキーボード・ソロ、「不思議な光を浮かべた霧の夜」に「少し背中まるめ 踊るように歩」く女性のこころの隙間を埋めていくようなコーラス、そしてエンディングのギター・ソロ。
見事な5分30秒である。

2曲めはA-4「Destiny」。
ふるくからのユーミン・ファンにはおそらく耳タコのこの曲、いまさらねえ…って感じなのではないだろうか。
でもぼくはいまだにこの曲が大好きなんですねー。
曲はキャッチーで、しかしけっして歌謡曲っぽくはなく、まったかさんのアレンジも功を奏して(ティンパニ by 林立夫! 笑)いかにもユーミンらしいドラマティックな構成をもっている。
さらにこの曲には鈴木茂がギターで参加していて、またこのシゲルのギターがいいのだ。
チャカポコ、チャカポコとワウの効いたギターもかっこいいが、イヤフォンで聴くとサビのところでリズム・ギターがチャカチャンチャカチャャーンと右に左にパンするのが悦楽(笑。
そしてやはり歌詞が胸にしみる。
「♪冷たくされて いつかは みかえすつもりだった
  それからどこへ行くにも 着飾ってたのに
  どうしてなの 今日にかぎって 安いサンダルをはいてた

どうしてこういう詞が書けるんでしょうね。
やっぱりユーミンって不世出のソング・ライターだわ。
この詞でこのメロディ、当時の女の子たちはみんなこの曲を聴いて涙を流したでしょうね。

そして最後の曲はB-2「気ままな朝帰り」だ。
Wikipediaでこの曲のことを調べてみると、
気ままに暮らしている主人公がまだ実家にいた数年前を照れくさく懐かしく振り返る。
と書いてある。

ちが~~う!
ぜんぜん違ーーう!
責任者出て来~~い(←古っっ!)

たしかに歌詞には「♪父親がうらめしかった昔が なんとなく照れくさくなつかしい だって今は誰ひとりとがめることもない 気ままな朝帰りなの」と書いてある。
けれどもその前の歌詞は
「♪けれどゆうべただひとり あなたを忘れるため にぎわう通り歩いた
とあるじゃないか。
曲調が明るいし、タイトルも「気ままな朝帰り」だし、結婚した若い女性が門限なんかに縛られず楽しい生活を謳歌しているようなイメージだけれど、ほんとうは
「Teen Age 最後のクリスマス」に「運命のいたずら」のように出逢った「あなた」を忘れるために一晩じゅう街をさ迷い歩いて、朝、部屋へ戻る歌なのだ。
英語のタイトルも「As I'm Alone」となっているじゃないか。
口笛も入る明るいメロディとのどかなリズムで(間奏にナイロン・ストリングス・ギターが入るあたりは完全にギルバート・オサリヴァンの世界だ)すっかり紛れてしまっているけれど、ほんとうは胸が詰まるようにつらい思いを抑えた歌というところがすごい。
つぎの「水平線にグレナディン」がソプラノ・サックスなんかも入って淋しげな曲なので、よけいにそのあたりが対照的で、そこにまたこの曲のなんともいえない魅力があると思う。

ということで今までウィキを読んで何も疑問を感じなかったあなた、もう一度この曲を聴いてご覧なさい。
今まで聴いてきた曲がまったくちがう表情で現れますよ~(笑。

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コメント 8

MASA

このアルバムはあんまり聴かないせいもありますが、個人的には印象が薄いですねえ。
無理矢理に英語のタイトルをつけている意味もよく分からないし^^;
ただ必殺の名曲「Destiny」が入っているので侮れません^^。
by MASA (2010-01-11 17:56) 

parlophone

MASAさん、こんばんはー。
いつも「ユーミンのアルバム」にコメントありがとうございます。

>このアルバムはあんまり聴かないせいもありますが

ですよねー。
どちらかというとあまり人気のアルバムではないんじゃないでしょうか。
ぼくも個人的にすぐ思い浮かぶのはA-1、2、3、4、 B-1、2ぐらいです。
「78」は上田正樹のヴォーカルが強烈ですが、あまり魅力を感じません(笑。
でもやっぱりDestinyはすごいですよね♪

by parlophone (2010-01-11 22:35) 

Naru

2度目の書き込みをさせていただきます。
その後、アキュのCDはいかがでしょうか??

当方、ポールとユーミンが世界でNO1.2を分け合う全く同列のソングライターだと思っちゃってるユーミン好きです。
今後ともよろしくお願いします。

「気ままな朝帰り」について激しく同意!!
なんか仄かにもの悲しいんですよね。

確かにあまり聴くアルバムではないかも??
オリーブと流線型が多いかなあ〜





by Naru (2010-01-13 13:13) 

parlophone

Naruさん、こんばんは!

コメントありがとうございます^^

>その後、アキュのCDはいかがでしょうか??

おかげさまで、なんとかオーケストラも聴けるようになってきました。
まだまだアナログに比べるとちょっと雑な表現になりますが、最初のひどい状態からはずいぶんマシになってきました。
やっぱりエージングなんでしょうかねえ。

>当方、ポールとユーミンが世界でNO1.2を分け合う全く同列のソングライターだ
>と思っちゃってるユーミン好きです

それはすごい!!
ユーミンも感激するでしょう。
ぼくももしユーミンがいなかったら日本のポップスはずいぶん味気ないものだっただろうと思います。

>「気ままな朝帰り」について激しく同意!!
>なんか仄かにもの悲しいんですよね

ありがとうございます!
ですよねーー^^

ぼくもオリーヴも流線型も好きですが、よく聴くのは『紅雀』と『リインカーネーション』です…。
でわでわ、今後ともよろしくお願いします。

by parlophone (2010-01-15 00:12) 

milk_tea

年が明けて久しぶりに人の?ブログを見る余裕が出来いくつか拝見してました。
ユーミン。思うんですけどparloさんにしても私にしても(並列で書いたら畏れ多い
ですけども)ことユーミンに関しては、視点がディープすぎて一般的な音楽評と
しての読み物ということではどうなんだろうな、と改めて思いました。
紅雀や悲しいほどお天気は悲しいほど名盤(?)なわけですけど、文の立つ
parloさんや、そこそこ文の立つ私でもやはりその名盤の名盤たる理由は語り
切ることは出来ず、そこを必死に書けば書くほど一般人の共感から離れていくの
かもしれなかったり。
って、何を言ってるのか自分でもよく判りませんが、私の知る限り「こやつ、かなり
ユーミンの核心に触れておるな」と唸らせる数少ない1人です、parloさんは。
(生意気な書き方をお許し下さい。私もそれなりにユーミンの音楽世界には
こだわりがあるので、いいと思えるユーミン評にはめったに出会えない)
今後もparlo師匠にはついていくことでしょう。
(え。ついて来ている感じなど、してない???(笑))

by milk_tea (2010-01-17 22:50) 

parlophone

milkちゃん、こんばんはー。

>久しぶりに人の?ブログを見る余裕が出来いくつか拝見してました

少しはゆとりがでてきたということでしょうか。
それだとうれしいんですが^^
なんだか褒められてるのかけなされてるのかよくわからないようなコメントですが、言われてみて気がついたのが、ぼく個人はほかの人が書いたユーミンの記事をまったく読んでないということですね。
ただmilkちゃんのブログでユーミンの記事を見つけたときは(まだブログを立ち上げたばかりのころですよね)ちょっと読んでみて、すごく共感できたので思わず書き込んでしまったし、ユーミン祭りのときは浮かれすぎて書きすぎて、ほかのひとに怒られちゃいましたよね^^;
あんなにブログを読むことが楽しかったのは(もちろん怒られたときはすごく恥ずかしかったですけど)あのユーミン祭りのときだけですね。

>「こやつ、かなりユーミンの核心に触れておるな」と唸らせる数少ない1人です

ありがとうございます。
どこまで核心に触れてるかはわかりませんがmilkちゃんにそう言ってもらえると、素直にうれしいです。
とりあえずもうしばらくはユーミンの記事書いていくつもりなので、またお暇がありましたらお寄りください^^

by parlophone (2010-01-19 00:29) 

milk_tea

今、上記のコメントについてのレスを初めて読みました。
ありゃ!私のごちゃごちゃした書き方がいけなかったのですね。けなすはずが
ない~!そんな、神様に石を投げるようなこと?言うわけないです。
で、200万アクセス!
夢の世界です。そろそろ「情熱大陸」の取材でも来るのでは・・。
ものすごーい久しぶりに私も記事を書いてみたので、また見に来て下さい。
(でもparloさん好みの記事じゃないな、たぶん(笑))
ユーミン記事、またゆっくり拝見します。
by milk_tea (2010-02-13 23:47) 

parlophone

milkちゃん、こんばんはー。

>ありゃ!私のごちゃごちゃした書き方がいけなかったのですね

いえいえ、とんでもない。
やっぱり好きであればあるだけ、音楽を文字で語ることのむずかしさを思い知ることになるわけですよね。
もっと肩の力を抜いて
「あー、こんなアルバムだったら聴いてみた~い」
と単純に人を惹きつける文章を書きたいと思うんですが、そういうのってなかなか書けないもんですね。

>ものすごーい久しぶりに私も記事を書いてみたので、また見に来て下さい

了解です^^

by parlophone (2010-02-14 21:36) 

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