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ワーデル・グレイ 『メモリアル・アルバム』 [JAZZの愛聴盤]

ワーデル・グレイというサックス・プレイヤーはわが国では実力のわりに知名度が低く、過小評価されているジャズマンのひとりだと思う。
40年代末にデクスター・ゴードンとバンドを組んでテナー・バトルを繰り広げたころ、全米では大変な人気があったようで、ダイアル・レーベルには「The Chase」という名演も遺されている。
1952年にはジーン・ノーマンのジャスト・ジャズ・コンサートでこのバトルを再現し、米デッカから『ザ・チェイス・アンド・ザ・スティープルチェイス』というタイトルでリリースされた。
これは紙ジャケにもなっているのでご存知の方も多いだろう。
ただグレイの真骨頂は、スタジオ録音のスムーズでイマジネイション豊かな、唄うようなソロにあると思うのだがどうだろう。

1940年代末、テナー・サックスの世界には逸材が次々と現れた。
デクスター・ゴードン、ワーデル・グレイ、ジーン・アモンズ、アレン・イーガー、ソニー・スティット、ラッキー・トンプスン、スタン・ゲッツ、アル・コーン、ズート・シムズ、ジミー・ヒース……。
彼らに共通しているのは、レスター・ヤングの繊細で流れるようなフレーズを、チャーリー・パーカーのイディオムに則って表現したということだろう。
やがて若きソニー・ロリンズが現れてモダン・テナーの世界を塗り変えるまで、彼らは互いに交流を深めながら、バップ・テナーの優れた演奏を聴衆に与え、レコードに刻んだ。
このなかでいちばん人気があるのはいうまでもなくスタン・ゲッツであり、ぼくも彼の演奏は好きなのだが、今日はワーデル・グレイがプレスティッジに遺した2枚のアルバムを紹介しよう。

  

白人のゲッツやズートが音色までもレスター流のやわらかで女性的なトーンを用いたのに対し、ゴードンをはじめとする黒人のテナー奏者たちはコールマン・ホーキンズ流のビッグなトーンを特徴としている。
ワーデル・グレイはこうしたテナー奏者の中では比較的やわらかな音色で、躍動感と歌心溢れるスムーズなフレージングを得意として人気のあった人だ。
『ワーデル・グレイ・メモリアル』と題されたこの2枚のアルバムから、じつに「Twisted」、「Farmer's Market」、「Jackie」の3曲がのちにアーニー・ロスによってヴォカライズされた、ということからもそのアドリブがいかにメロディアスなものだったかがわかるだろう。
では聴きどころを簡単に紹介していこう。

Vol.1』のA面はアル・ヘイグのピアノ、トミー・ポッターのべース、ロイ・ヘインズのドラムス、という当時のパーカーのリズム・セクションを従えてのワン・ホーン・クァルテットで49年11月の録音。
代表作といわれる「Twisted」は5テイクのうち、マスターとなったテイクEと別テイクのBが収録されている。
さてこの2つの「Twisted」がまったく違うので驚かされる。
テーマは12小節のブルーズで、テイクBではイントロのあと、テーマを2回繰り返してグレイのソロに入るというごくふつうの展開だ。
ところがマスター・テイクの方はラテン・リズムのとってつけたようなイントロのあとテーマ1回でグレイのソロに移るのである。
グレイのソロは甲乙つけがたいが、どちらかを取れといわれればぼくは別テイクのほうを取る。
マスターとなったテイクEのほうは同じフレーズを変化させながら繰り返すというよくあるパターンがとちゅうで顔を出し、味わいという意味でやや劣るような気がするのだ。
ただテイクBはイントロのリズムにやや乱れがあるのと、アル・ヘイグのソロが構成力という点でマスター・テイクには及ばない。
さらに、2回目のテーマのときに誰かの声が演奏に大きくかぶさって聞こえるので、没テイクになったのだろう。
つづくスタンダード・ナンバーの「Easy Living」も素晴らしいできで、こういうバラードになるとビ・バップ特有の起伏に富んだ音階の跳躍は姿を消し、レスター直系のなめらかで流れるようなアドリブが印象的だ。
2つ収められたテイクはアルのピアノも含めて甲乙つけ難い。

B面は50年4月のレギュラー・クインテットの演奏と、のちにテンテットを率いて革新的な役割を果たすテディ・チャールズのグループとのセッションを収めている。
こちらは53年2月の録音で、ソニー・クラークのレコーディング・デビューというオマケもついている。

Vol.2』のA面はライヴ・レコーディングで、「Scrapple from the Apple」、「Move」というバップの名曲をクラーク・テリー(tp)、ソニー・クリス(as)といったメンバーと演奏しているが、「Move」にはデクスター・ゴードンが参加して、人気を博したテナー・バトルを再現しているのが興味を引かれるところだ。
スムーズなグレイに対してギクシャクしたゴードンという、ふたりの対照的なフレージングがおもしろい。
ソニー・クリスは後年のくすんだようなトーンではなくて、若さに任せて吹きまくるという感じで清々しい。
1950年8月にLAのサンセット・ブールヴァードにあるクラブで録音されている。

B面はアート・ファーマー(tp)、ハンプトン・ホーズ(p)を含むセクステットの演奏で、1952年1月にこちらもLAで録音されている。
前述の「Farmer's Market」、「Jackie」のほか、「Lover Man」など6曲が収められた。
ファーマーはまだフリューゲルホーンに持ち替える前で、例によって細かいフレーズを積み重ねながら洗練されたトランペットを聞かせる。
駐留軍として滞在中に日本のミュージシャンに大きな影響を与えたホーズのピアノも、躍動感があってじつにいい。
49年の録音と比べるとグレイのフレージングもハードになっているのが印象的で、ホーズのピアノに刺激を受けたかのように溌剌として伸びやかでスウィンギーなフレーズを吹き切っている。

このアルバムに収められた演奏は、グレイが28歳から31歳というミュージシャンとしてもたいへん充実した時期にレコーディングされたものだが、それから3年後の1955年5月25日に巡業先のラスベガスの郊外で変死体となって発見されることになる。
警察の調べではオーヴァードーズ(直接の死因はベッドから落ちて首の骨を折った)ということになっているが、金銭のトラブルによる撲殺という説も根強く残っているようだ。

WARDELL GRAY MEMORIAL  VOLUME ONE/ TWO
PRESTIGE LP 7008/9

本編のサイトMUSIC & MOVIESの「JAZZの愛聴盤」のコーナーは
こちらから。


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夜明けのティーンエイジャー

ワーデル・グレイのこのアルバムのことは知っていたのですが何故か手が伸びませんでした。なるほどレスター系の奏者なのですね。だとすると好きなタイプですねぇ。あ、でも、ホーキンス系も好きなんですけどね。
そういえば最近はとんとレコ屋へ行ってもジャズ・コーナーは覗かなくなりました。OJC再発盤の中古で1枚500円くらいで買えればいいな(笑)。
by 夜明けのティーンエイジャー (2005-11-11 01:48) 

parlophone

夜明けさん、どうもです。

>なるほどレスター系の奏者なのですね。だとすると好きなタイプですねぇ。
>あ、でも、ホーキンス系も好きなんですけどね。

だったら間違いなくオススメです。

>OJC再発盤の中古で1枚500円くらいで買えればいいな(笑)。

そうですね、2枚で1000円。
う~む、得した!って感じですよね^^
ぜひ機会があれば聞いてみてくださいね!
by parlophone (2005-11-11 02:07) 

bassclef

遼さん、夜明けさん、こんばんわ。遼さん、このところ「いいロック」(僕にもわかる時代の:笑)と、それだけでなく「いいジャズ」も、グングンとブログにして、すごい勢いありますね。素晴らしい!拙ブログ<夢レコ>でも見習わなくては(笑) ワーデル・グレイ!またこれは・・・僕もしっかりOJCで持ってますが(笑) で、聴いてからコメントしようかな、と探したんですが・・・入手時に最も興味あった参加ミュージシャンで分類しているので、ソニー・クラーク絡みでvol.1のみしか出てこないんです(笑) 遼さんお勧めの<Easy Living>・・・このバラードは、僕も大好きで、だいぶ前に「テナーのバラードベスト集」をカセットにした時、入れました(笑) 久しぶりに聴いてみると・・・やっぱりいいですね。1949年のミュージシャンの音とは思えないくらいモダンなテナーですね。1953年のクラーク入り4曲(B面1~4。そういえば、この頃の12インチは、既発売の3枚の10インチを集めた体裁のものが多いみたいですね。その場合、A面1~4、B面1~4に、いい方の2枚をもってきて、残りの1枚分は、A面・B面の最後に、いかにもオマケという感じで詰め込んであるんです:笑) 53年なんで、録音の感じが、だいぶん良くなってきてます。グレイのテナーも大きいノリでいいですが、アルトのフランク・モーガンも、いいソロ吹いてます。ソニー・クラークは・・・まだ「らしさ」が薄いですかね。いやあ・・・やっぱりいいレコードです。vol.2のアート・ファーマーも聴いてみたい。どっかにしまったはずだ・・・探してみよう。それにしても、遼さん、どういうインスピレイションで、こんな地味なレコードを思いついたんでしょう?夢にで出てきたんでしょうね(笑)
by bassclef (2005-11-11 20:05) 

parlophone

49年のやつはマスター・テイクはオリジナル・マスターからみたいですが、別テイクは盤起こしですもんね。
53年のクラーク入りはたしかデトロイト録音かなんかでしたね。
音も違うし、グレイのテナーもだいぶハードになってきてますよね。

「Easy Living」はマスター・テイクと別テイク、bassclefさんはどちらがお好みですか?

>それにしても、遼さん、どういうインスピレイションで、
>こんな地味なレコードを思いついたんでしょう?

ぼくはテナー・サックスも好きで、たとえばカウント・ベイシーのレスターとハーシャル・エヴァンスの2テナー時代とか、ウディ・ハーマン・セカンド・ハードのフォー・ブラザーズの録音とか、一時期そういうのを一生懸命聴いていたころがあって、だからレスター・スクール(って言っていいのかな?)のワーデル・グレイとかアレン・イーガーとかも好きなんですよ。
このアルバムは日本ビクターからプレスティッジ、リヴァーサイドの名盤が、初回のみ重量盤で出たことがありましたよね(80年ごろ?)
そのころからのお気に入りです^^
by parlophone (2005-11-11 21:54) 

bassclef

遼さん、さっそくの反応コメントをどうも。twistedやeasy livingの別テイク・・・僕の手持ち盤はOJC-050というLPなんで、その別テイクがないのですよ・・・ああ、残念だあ(笑) 
>カウント・ベイシーのレスターとハーシャル・エヴァンスの2テナー時代とか、ウディ・ハーマン・セカンド・ハードのフォー・ブラザーズの録音とか~レスター・スクール(って言っていいのかな?)のワーデル・グレイとかアレン・イーガーとかも好きなんですよ~
わかります。ゲッツとかズート・シムズも、やはりこの手の流れから出てきた名手ですもんね。いやあ・・・僕も、どうやら、テナーは好きなようです(笑)
by bassclef (2005-11-11 22:48) 

parlophone

bassclefさん、どうもです。

>僕の手持ち盤はOJC-050というLPなんで、その別テイクがないのですよ

え?じゃあ "Original" Jazz Classics じゃないじゃん!
そうだったんですか~。残念です…。
ワーデル・グレイはもっとほかの音源も聴いてみたいですテナー奏者ですね。
でもbassclefさんとはほんと趣味がぴったしでウレシイです^^
by parlophone (2005-11-11 23:46) 

Dr.アート

ソニー・ロリンズの名前がありましたので、TBさせて頂きました。よろしくお願いします。
by Dr.アート (2005-11-22 05:59) 

parlophone

Dr.アートさん、初めまして。
コメント&トラバありがとうございました。
ロリンズと握手なさったことがおありなんですね。
うらやましい~^^

ぼくがジャズを聴き始めた70年代前半、ロリンズは『カッティング・エッジ』などの新作をリリースしてバリバリの現役でした。
増尾好秋(g)をメンバーに加えたりして 人気がありましたね。
懐かしいです。
by parlophone (2005-11-22 22:56) 

はじめまして!うわぁ、ワーデル・グレイだ。これまた渋い.....。
本編のHPで紹介されていたWallingtonのThe New York Sceneは私も愛聴盤なので、ちょっと嬉しくなってしまいました。
このブログの訪問者は濃ゆいジャズ・ファンが多いみたいですね。私はなんちゃってリスナーですが、ジャズは大好きです。
by (2005-12-04 01:29) 

parlophone

あきつさん、初めまして。
コメント&nice! ありがとうございました。

>私はなんちゃってリスナーですが、ジャズは大好きです。

いえいえ、ブログを拝見してすごく通の方とお見受けしました。
ブルー・ミッチェルの『DOWN WITH IT !』は聴いたことがないので、今度聴いてみます。
これからもよろしくどうぞ!
by parlophone (2005-12-04 13:49) 

kumac

勉強になります。
TBお願いします。
by kumac (2006-06-18 07:58) 

parlophone

kumacさん、はじめまして。
ようこそいらっしゃいました。
管理人の遼と申します。よろしくお願いいたします。

ワーデル・グレイのようなマイナーなテナー奏者のアルバムにコメントがあるとうれしくなってしまいます。

あとでkumacさんのブログにもお邪魔しますね。
by parlophone (2006-06-18 18:57) 

はなわ いずみ

1952年9月9日ハリウッドの”ヘイグ”で演奏された4曲がXanadu146でレコード化されていますが、これのグレイはバツグン!
Taking a Chance On Love のロングソロでは、フレーズが「湯水のごとく湧き出て」きます。私の大好きなグレイの一曲。
by はなわ いずみ (2015-05-05 09:11) 

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