SSブログ

プリファブ・スプラウトのアルバム―part 3 [ブリティッシュ・ロック]

プリファブ・スプラウトの8年ぶりのニュー・アルバムが出るという話をタケシくんから聞いたのは、今年の夏あたりだっただろうか。
そのころはまだ、『スティーヴ・マックイーン』を聴き始めたばかりのころだったからあまりピンとは来なかったのだが、タケシくんの話によるとなんでもアルバム自体は17年もまえから作り始められていたという。
あきれるのを通り越して笑ってしまうような話だが、このまえタケシくんから借りたステュワート&ガスキンの新作『グリーン・アンド・ブルー』は18年ぶりの新作だったのだから、どうもタケシくんの好きなアーティストは寡作家が多いようだ。

さて、そのプリファブの新作『レッツ・チェンジ・ザ・ワールド・ウィズ・ミュージック』(長いので以下『ミュージック』と略す)は、本来ならば1990年の『ヨルダン:ザ・カム・バック』の次に同じくトーマス・ドルビーのプロデュースでリリースされる予定だった。

16.jpg

今回のアルバムのライナーで、パディ・マクアルーンはこのアルバムをビーチ・ボーイズの失われたアルバム『スマイル』に喩えている。
というか、そのころの自分は『スマイル』の制作に没頭していたブライアン・ウィルソンのような仕事がしたかった、と告白している。

 一生懸命がんばれば、いつか遠い未来には、そんな深い感覚を備えた音楽(引用者註:ブライアンが『スマイル』でめざしたような"スピリチュアルな音楽")が、なんとか自分にも作れるかもしれない、とぼくは夢想していた。

そうして17年という歳月かけて完成されたアルバムは、文句なしに素晴らしい傑作だ。
タケシくんはこの新作を聴きながら思わず泣いてしまったと言ってた。
収められた11曲のタイトルには
「Let There Be Music」
「I Love Music」
「Music Is a Princess」
「Sweet Gospel Music」
といったような、音楽そのものに対する愛を表明したようなものが多い。
A-1「Let There Be Music」でいきなりラップが飛び出してびっくりするけれど、ほとんどがミディアム・テンポの美しいメロディとハーモニーをもった曲で、パディのインティメイトで情感のこもった、しかしどこか切実で痛みを伴うような響きのヴォーカルは昔のままだ。

17.jpg

ただここにはウェンディ・スミスのひそやかなコーラスもマーティンのベースもない。
97年の『アンドロメダ・ハイツ』でドラムスのニール・コンティが抜け、2001年の『ザ・ガンマン・アンド・アザー・ストーリーズ』ではウェンディが抜け、そしてとうとう新作ではマーティンもいなくなってしまった。
つまり『ミュージック』はプリファブ・スプラウトの新作だが、メンバーはパディひとりなのだ。

 今ぼくは心から思う、この『レッツ・チェンジ・ザ・ワールド・ウィズ・ミュージック』を、マーティやウェンディやニールやトーマスといっしょに録音したかった…。

17年の歳月はじつに美しい音楽の豊穣と同時にあまりにも大きな喪失をもたらしたといっていいだろう。

ひょっとしたら、とぼくは半ば冗談のように思う。

つぎに10年後、あるいは15年後、プリファブ・スプラウトの新作がリリースされたとき、そこにはもうパディさえもいなくて、あるのはただ果てしない夜空を永遠に飛び去ってゆく星の囁きだけが音楽のように流れているのかもしれない…。

(本文中のパディのライナーは国内盤解説の伊藤英嗣氏の翻訳から引用させていただきました)
nice!(0)  コメント(4)  トラックバック(1) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 4

MORE

Paddyはこの新作を完成させるにあたって、体型もブライアン・ウィルソン並に太ってしまいました・・・というのはウソですが、音楽に対する姿勢や音楽が大好き!という人柄(というんでしょうか)は同じですね。
ブライアンは彼を尊敬する若者達に背中を押されながらSmileを完成させましたが、パディーは「独りで」このアルバムを完成させました。
全体的なサウンドが打ち込み系なのはちょっとだけ残念ですが、彼独特の胸キュン・メロディーと純情路線まっしぐらな歌詞の世界は健在!
Steve McQueenのレガシー・エディションで聞かせてくれたみたいなアコースティック・アレンジでもう一度やって欲しいですね。
できればWendyがバックコーラスで!
by MORE (2009-12-15 08:26) 

parlophone

MOREさん、こんばんはー。

>Paddyは…体型もブライアン・ウィルソン並に太ってしまいました・・・

あはは。
でも実際にブックレットで見るパディは、まるで世捨て人かなんかのようで、『マックイーン』のころの面影はまったくありませんね。

>パディーは「独りで」このアルバムを完成させました
>彼独特の胸キュン・メロディーと純情路線まっしぐらな歌詞の世界は健在!

ですよねー。
孤独な影が聴くものの胸を締めつける感じもありますが、まごうかたなきプリファブ・スプラウトの世界が展開しますよね。

>アコースティック・アレンジで…できればWendyがバックコーラスで!

これ、ほんとお願いしたいですね。
ムリなのかなあ~。
ムリなんだろうなあ…。

by parlophone (2009-12-15 23:16) 

ryo

遼さん、こんにちは!お祝いのコメント、ありがとうございました。
残りも頑張りますね。

最近はそれこそ勉強ばかりなので、店頭にはあまり行けていないのですが、ネット通販でコレを買いました。

メンバーはパディ一人。「う~ん・・・」と思ってたものの、いざ聴いてみるとなかなかのクオリティでした。
確かにウェンディがいないのは大きいですが、「プリファブ」を名乗るのには十分な質でしょう。
パディの音楽への愛が感じられますね。
TBさせて頂きます。
by ryo (2010-02-03 16:21) 

parlophone

ryoさん、こんばんはー。
いままでがんばってきたことが報われて、ぼくもほんとうにうれしかったです^^
プリファブのニュー・アルバム、やっぱりいいですよね。
パディ一人でもまぎれもなくプリファブの音になってるし、なにより音楽に対する愛に溢れてるところがすばらしいです。
こちらからもトラバさせていただきますね。

by parlophone (2010-02-03 23:37) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。