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WOMAN [にぎやかな夜、その他の夜]

(12月8日にまつわるショート・ストーリー)

きのうの夜遅くすごく久しぶりに女友だちから電話があった。

「ねえ、きょう何の日だか覚えてる?」
まるで毎日会ってるみたいな口の利き方だ。
一瞬だけ迷って、一般的なほうから答える。
「日本軍が真珠湾を攻撃して太平洋戦争が始まった日」
「それと?」
「ジョン・レノンが亡くなった日」
「ねえ、それって常識?」
「どうかなあ、一応は常識かなあ」
「トシカズ、ビートルズ詳しかったよね」
彼女は10歳も年上のぼくを呼び捨てにする。
「うん、まあまあかな」
「Womanっていう曲あったでしょ?」
それはビートルズじゃなくてジョンの歌だけどね、と心のなかではちゃちゃを入れながら
「ああ、ユッコ好きだったよね」
「どんな歌だっけ」
「え?」
「歌ってよ」
「え? 今?」
「覚えてるでしょ」
女子高生のころからこんなしゃべり方だった。
自分のいうことを男が聞くのは当たり前みたいな、若さゆえの驕りがちっとも鼻につかない天真爛漫な少女だった。

仕方なくベッドに寝転がったまま携帯に向かって口ずさむ。
「♪Woman I can hardly express
  My mixed emotions at my thoughtlessness
  After all I'm forever in your debt
  And woman I will try to express…

「……」
「思い出した?」
「それってどんな意味の歌だっけ、大ざっぱに言うと」
「えーっと」
オレは何やってんだ、夜中の2時過ぎに。
「男のなかにはいつまでも少年みたいな部分があって、でもぼくの人生は君の手のなかなんだよ、愛してるよ今もこれからも、みたいな感じかな」
「あのね」
「うん」
「あたし結婚するんだ」
「え…」
当然予測するべきだった。久しぶりの突然の電話だったのだ。
でも、ジョンの命日の話から始まったので完全に油断していた。
「もしもし、聞いてる?」
「あ、そうなんだ。おめでとう」
「で、さっき兄に電話で報告したら、どんな男なんだって言うから、すっごくまじめでバカみたいに正直な人なのって言ったら、兄は大声で笑って、トシカズにそっくりだなって」
「なんだ、それ」
「ねえ、あなたってバカみたいに正直な人だったっけ?」
「え?」
「で、わたしはずーっとこの歌が好きだったんだからね、って相手の男に言っとけって」
「あいつらしいね」
「でもあたし、この歌のこと、あんまし覚えてないんだよね」
「えー、そうなの? ユッコが高校のとき、ラジオで聴いたかなんかで、一時期いつもオレんちに来ちゃあこのレコード聴いてたんだぞ」
「何てレコード?」
「『ダブル・ファンタジー』。ジョンとヨーコがキスしてるやつ」
「あー、あれかあ!」
「思い出した?」
「思い出した。そうかあ、あのレコードに入ってたんだ」
「もう10年以上前だよね」
「兄がね、結婚式のときには日本に帰ってくるから、その前にまた昔みたいに3人で飲もうって」
「そうだね」
「じゃあ、また連絡する」
そう言って電話はまた突然切れてしまった。
まったく、相変わらず嵐のようなやつだ。

  John_06.jpg

眠れなくなってしまったぼくは、それから「Woman」と「Beautiful Boy」を何度も繰り返し聴いた。
ユッコと、会ったことのないユッコの結婚相手と、それから生まれてくるであろう二人の子どものことを思い描いたりしながら……。



(このお話は完璧なフィクションです。よしなに…笑)
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コメント 8

may_r

おはようございます。

>Woman
現在は”愛と平和のカリスマ”みたいに思われてる?ジョンも
その前に親であり、夫であり、人なんですよね。
この曲を聴くとしみじみそう思ってしまいます。

>『ダブル・ファンタジー』
未だにヨーコのパートには馴染めません(苦笑)
レコードでは無くCDで聴きたいアルバムです。
by may_r (2009-12-09 07:34) 

MORE

フィクションではなかったら、座布団4枚のところでした・・・

>『ダブル・ファンタジー』
やっとジョンが復活した!と、それまで歯痒かったソロ活動に終止符を打ってくれると思った矢先、人生にピリオドを打たれてしまった・・・
Woman-良い曲ですよね。あー、やっぱりジョンはヨーコさんのことを心底愛しているんだと確認した曲です。

あー、でもやっぱりジョンと言えば「ジョン魂(タマと読んでね)」ですね!
by MORE (2009-12-09 10:05) 

parlophone

may_rさん、こんばんはー。

>現在は”愛と平和のカリスマ”みたいに思われてる?ジョン

ですよね。
ぼくは芸術家としての小野洋子は尊敬しますけれど、いまミュージシャンとして活動しているヨーコ・オノはジョンを偶像化してるようなところが感じられて、あまり好きになれません。

>その前に親であり、夫であり、人なんですよね

ほんとそうですよね。
Womanはそんな人間としてのジョンを感じてしまういい曲ですよね。

>レコードでは無くCDで聴きたいアルバムです

じつはぼく、レコードはおろかCDさえ持っていません。
そのうち買います(爆。

by parlophone (2009-12-09 21:31) 

parlophone

MOREさん、こんばんは!

>フィクションではなかったら、座布団4枚のところでした・・・

えーーっ、そんなにー(笑。
すごくうれしいです^^
でも実生活ではこんな女性と巡り合ったりはしませんでしたねー。
でも初めてこのブログを見た方は最後まで読まないとフィクションということがわからず、変な男と思われたかもしれませんね(笑。

>やっとジョンが復活した!と…思った矢先、人生にピリオドを打たれてしまった

あの衝撃はやはり忘れられませんね。
復活の直後だっただけに、高揚から失意の落差の大きさが応えましたね…。

>あー、やっぱりジョンはヨーコさん

ですよねー。

>でもやっぱりジョンと言えば「ジョン魂(タマと読んでね)」ですね!

ぼくはあのヒリヒリした音楽の感触にいたたまれなくなることもときどきあって、けっこうしんどいアルバムです。
でも『ジョン魂』という命名はすばらしいですよね。

by parlophone (2009-12-09 21:39) 

MASA

やだなあ、「トシカズ」って遼さんの本名かと思ったじゃないですか〜(笑)。
でもすごく引き込まれるお話でした。さすがですね^^。
タメ口きいてくる20コくらい下の女友達なら2人ほどいますよ。
2人とももう子持ちの主婦ですが(笑)。

忙しくて今年はジョンの曲を全く聴かずに命日を過ごしてしまいました。
「ダブル・ファンタジー」は、聴くとジョンが亡くなった頃を思い出すのでほとんど聴くことがないですが、ヨーコの曲をすっ飛ばしてジョンの曲しか聴かない、という人が多くてガッカリします。

あのアルバムはジョンとヨーコの曲が交互に収録された対話形式で、ふたりが一心同体となったアルバムなのに、それをジョンだけしか聴かないっていうのはどうなんですかねえ。
まあ「キス・キス・キス」がちょっとキツイとかいうのは分かりますけども(笑)。

私はジョンとヨーコの絆の深さ・強さをすごく感じるし、そこがあのアルバムのコンセプトだと思うのですが、みんな未だにヨーコの音楽に偏見持ってるんでしょうか?だとするとすごく残念です。
by MASA (2009-12-10 02:29) 

parlophone

MASAさん、こんばんは。

お褒めいただいてありがとうございました^^

>やだなあ、「トシカズ」って遼さんの本名かと思ったじゃないですか〜(笑)

うひひ、ほんとうにこんな女友だちがいたら困っちゃいますよねー。
ま、ぼくには縁のない話ですが(笑。

>タメ口きいてくる20コくらい下の女友達なら2人ほどいますよ

おおー、すばらしいー。
ということは30ちょっとぐらいの女性ですね。
そういえば、ぼくにもいっしょに昼飯を食いに行く程度の女性なら2人ぐらいはいるか。
でもこの物語に出てくるような甘い感じはまったくありませんけどね(当たり前ですが…)。

>あのアルバムはジョンとヨーコの曲が交互に収録された対話形式で、
>ふたりが一心同体となったアルバムなのに、それをジョンだけしか
>聴かないっていうのはどうなんですかねえ

まあ、そのあたりの聴きかたに対して、ぼくはどうこういう資格はありませんが、今月号の『CD ジャーナル』のマッキーさんの「ぼくの音盤青春記」が、やはりジョンの亡くなったときの想い出で、マッキーさんも『ダブル・ファンタジー』に収められているヨーコの曲はどれもみな好きだ、っておっしゃってました。

ぼくも早くCDを買って(爆)、「ジョンとヨーコの絆の深さ・強さをすごく感じる」ぐらいに聴き込みたいと思っています。

by parlophone (2009-12-11 01:01) 

ニブ

遼さん、こんばんは

「WOMAN」~とてもジョンらしい曲ですね。
歌詞を考えると、1・2番でサビの歌詞をなくして(実際は、ooh、wellとはありますが・・)3番につなげた所に物凄く高等な技を感じるし、ついでに3番で半音上げたとこなんかも唸ってしまいます。

それにしてもMASAさんのご指摘、さすがですねぇ。
僕も「WOMAN」が好きだったらせめて「BEAUTIFUL BOYS」は続けて聞くといいのになあ・・と思います。

昔、音楽雑誌でDOORSの熱心な研究家が“俺はDOORSとYOKO ONOだけで十分だ”と言っていました。
彼がジョンの曲を飛ばしていないことを祈ります(笑)
by ニブ (2009-12-12 21:06) 

parlophone

ニブさん、こんばんは。
レスが遅くなり申し訳ありません^^;

>歌詞を考えると、1・2番でサビの歌詞をなくして(実際は、ooh、wellとは
>ありますが・・)3番につなげた所に物凄く高等な技を感じるし、
>ついでに3番で半音上げたとこなんかも唸ってしまいます

なるほど~、そういうふうに分析的に聴いたことがありませんでした。
たしかにおっしゃるとおりシンプルな楽曲なのに、かなりテクニカルな構成になってるんですねー。
ジョンってやっぱりすごい(←いまさら…^^;)

>それにしてもMASAさんのご指摘、さすがですねぇ

いやあ、さすがですよー。
ぼくもちゃんとヨーコの曲を飛ばさないで聴けるように、まず『ダブル・ファンタジー』のCDを買います(爆。

by parlophone (2009-12-15 00:06) 

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