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『ヴァン・ゲルダー決定盤101』 [雑誌・書籍・コミック]

出張で新幹線などを利用するときちょっと本を買いたいと思う、という経験はどなたもお持ちだろう。
ふつうはKioskあたりで軽めの推理小説を1、2冊と冷たいビールを買うのだが、博多駅のばあい交通センタービルに紀伊国屋書店が入っていて、本格的に本を探すことができる。
先日は何を血迷ったか『ヴァン・ゲルダー決定盤101』という1,800円もする本を買ってしまった。
わはは、おかげで一睡もできませんでした^^

   

ひとりのアーティストでもプロデューサーでもなく、ひとりのレコーディング・エンジニアで1冊の本ができてしまうというのはいかにもヴァン・ゲルダーらしい。
先日は『トム・ダウド/いとしのレイラをミックスした男』という映画が日本でも公開されたが、トム・ダウドのばあいはレコーディング・エンジニアとしてだけでなく、プロデューサーとしても活躍した人だから、ルディ・ヴァン・ゲルダーはやはり異色というべきだろう。

表紙には大きく「巻頭対談=相倉久人×平岡正明」とあり、この本がターゲットとしている年代層がなんとなく読める(笑。
ふたりとも60年代から70年代前半にかけて活躍した音楽評論家で、全共闘世代の人たちに人気があった。

内容は演奏の優れた(録音の優れた、ではない)101枚のレコードをレーベル別に紹介したもので、読み終えてしまえば「ジャズ名盤選」とでも言うべき、とくに目新しいものでもないのだが、巻頭の対談やエッセイを読むと、「ヴァン・ゲルダー・サウンド」なるものがいかに多様なものかということがわかっておもしろかった。

目についたものをいくつか取り上げてみると

平岡正明:ヴァン・ゲルダーというのは要するにテナー・サックスがよければいい、…(中略)ドラムなんかは金盥持ってきてもいいし、ピアノなんかはダンボールでもいい。…(中略)ブルー・ノートって、圧倒的にテナー・サックスがいい。

小川隆夫:めりはりが効いた躍動的な演奏…(中略)それはとりもなおさず、ドラムスをきちんと録音するサウンドだった。
…(中略)ブルーノートの録音では、一般に優れているといわれるのがピアノのサウンドだ。めりはりの効いたタッチがブルーノートのピアノ録音では特徴になっている。

村井康司:ヴァン・ゲルダーの録音、特にブルーノートでの仕事について、「ベースとピアノの音が悪い」という批判がよくある。…(中略)ピアノは遠くで蓋を閉めているみたいにモコモコしている、という意見だ。ある意味それはまったくその通りである…(中略)ヴァン・ゲルダーは他のレーベルでも、ピアノの音についてはあまりエッジの立った録音をしていない。

橘淳之介:スピーカーの向こうで演奏者が立ちはだかっているのはありありと分かるのに、演奏者のいる空間にはあまり関心が向かわないのだ。

藤井暁:彼が録るピアノの音には他のエンジニアにはない「輝き」や「太さ」がある…。

いろいろな捉え方があるものですね。
さて、あなたのイメージするヴァン・ゲルダー・サウンドってどんな音ですか。

ぼくにとってはリー・モーガンやジャッキー・マクリーンなどの管の変化に富んだアーティキュレーションをあますところなく捉えたリアルな音、という感じなのだが…。


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コメント 4

路傍の石

ま。多くの方が語るようにヴァン・ゲルダーの録るピアノの音は鼻詰まりで聴けたもんじゃないかもしれませんね。そのおかげで、名盤の誉れ高いソニー・クラークの諸作がもうひとつと感じてしまいます。でも、ヴァン・ゲルダーの作るテナー・サックス、トランペットの音は紛れもなく超一流。思いっ切りオン・マイクで捉えたそのサウンド。奏者のツバキが掛ってくるようなド迫力ですね。

好きなアルバムはたくさんありますが、真っ先に思い浮かべるのはハンク・モブレーのBN1550と1568。モブレーが超一流のテナー・サキソニストとして光り輝いた瞬間です。

あ。今もう一枚思い出した!BN1530のユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ。あの膨らみのあるテナーの音はCDでは恐らく再現不可能。サックスが本来は木管楽器の位置づけであることを思い起こさせるようなマイルドで温もりのある音は、やはりこれもヴァン・ゲルダーならではか。
by 路傍の石 (2007-04-01 01:49) 

Refugee

こんな本が出てたんですね。
でも、内容的には、あんまり食指が動かない感じでしょうか(笑)
ヴァン・ゲルダー自身へのインタビューとかをふんだんに盛り込んで、その録音、カッティング、マスタリング(CDマスタリングを含む)の意図に迫る、みたいな内容だと、すごく興味深いんですが・・・

ピアノの音については、1500番台から4000番台、4100番台とだんだん変わっていくので、どの時点の録音を念頭におくかで、かなり印象は違うでしょうねぇ。
あとオリジナルばっかり聴いてる人と、再発やCDを聴いてる人じゃ、相当印象が違うと思いますし。
路傍の石さんが指摘している温もりのある音の響きって、RVG録音のピアノの音にもあるんですが、その響きを聴けるのがバカ高いオリジナルしかないという(笑)
とはいえ、鋭いタッチが聴ける録音じゃないので、それでも、嫌いな人は嫌いでしょうけどね。

ベースの音は、ぶっとくて、私はすごく好きですけどねぇ。
あとヴァイブがすっごいリアルですよね。

トランペットやサックスの音については、ぐぅのねも出ません(笑)
by Refugee (2007-04-01 16:12) 

parlophone

路傍さん、どうもです。

>名盤の誉れ高いソニー・クラークの諸作がもうひとつ

ぼくは「ジャズの古いCD」のところでも書いたように『ソニー・クラーク・トリオ』大好きですね~。
80年ごろ、マルタ・アルゲリッチがバイエルン放送響と録音したチャイコフスキーの『ピアノ協奏曲第1番』が録音がいいと評判になったことがあったんですが、そんな録音とはまったく違うジャズ・ピアノの音にしびれました。

>ハンク・モブレーのBN1550と1568

いいですね!
ぼくはコルトレーンと同じくらいモブレーが好きなんですよ。
ぜったいに過小評価だと思いますねえ。

>BN1530のユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズ

じつはこの本を読んでいちばん聴いてみたくなったのがこのアルバムなんです。
ユタ・ヒップというドイツ生まれの女性ピアニストにまったく興味がなかったので恥ずかしながら今まで聴いたことがなかったんですね。
ズートのテナーは大好きなので、路傍さんのコメントを見てさらに聴きたくなってしまいました。
近いうちに買いに行きます(笑。
by parlophone (2007-04-01 23:13) 

parlophone

Refugeeさん、どうもです。

>内容的には、あんまり食指が動かない感じでしょうか(笑)
>ヴァン・ゲルダー自身へのインタビューとかをふんだんに盛り込んで、その録音、
>カッティング、マスタリング(CDマスタリングを含む)の意図に迫る、
>みたいな内容だと、すごく興味深いんですが・・・

そうなんですよ、けっきょくジャズの名盤選になってしまっているのが残念です。
ただ、ヴァン・ゲルダーというとどうしてもブルーノートのイメージが強いんですが、この本ではブルーノート40枚、プレスティッジ20枚、インパルス15枚、そのほかヴァーヴ、サヴォイ、アトランティック、アーゴ、シグナル、アドリブ、プログレッシヴなどの50~60年代のレーベル、そのほか70年代以降の録音も18枚ほど紹介されています。
ぼく自身以外だったのはインパルスの『ブルーズの真実』と、ジム・ホールがリーダーとなってCTIレーベルに吹き込んだ『アランフェス協奏曲』がRVGの録音だったことです。
Refugeeさんがおっしゃってるように同じRVGの録音でも年代によって相当音の傾向が変わってくるのがおもしろかったですね。

>路傍の石さんが指摘している温もりのある音の響き…
>その響きを聴けるのがバカ高いオリジナルしかないという(笑)

そうなんですか!
じゃあぼくには永久に聴けませんね…。
残念(笑。

>ベースの音は、ぶっとくて、私はすごく好きですけどねぇ

ブルーノートのベースというと、ぼくはどうしてもポール・チェンバースのアルコを思い出してしまうので^^;
by parlophone (2007-04-01 23:43) 

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