SSブログ

ブリティッシュ・フォークのミューズたち-その3 スパイロジャイラ [ブリティッシュ・フォーク]

ライナーノウツの冒頭に立川芳雄はつぎのように書いている。
いかにも英国的な陰翳、抒情的なメロディ、ドラマティックな曲展開、そして天使のような女性ヴォーカル……。(中略)スパイロジャイラの『ベルズ・ブーツ・アンド・シャンブルズ』はこれらの要素をすべて兼ね備えた傑作だ」 

スパイロジャイラといえば『モーニング・ダンス』という大ヒットを飛ばしたフュージョンのバンドしか知らなかったぼくが、この作品を聴いてみたいと思ったのは、『レココレ』の2004年9月号(ブリティッシュ・フォーク/トラッド特集)を読んだからだが、上の立川の記述は大げさでもなんでもない。
ほんとうにすばらしいアルバムである。

   

スパイロジャイラはソング・ライターでギタリスト、ヴォーカリストでもあるマーティン・コッカハムが、同じケント大学に在籍していたバーバラ・ガスキンという女性と組んだバンドで、デビュー・アルバム(このときは4人組)は1971年にリリースされている。
本作は73年にリリースされた3rd アルバムで、マーティンとバーバラのほかはサポート・ミュージシャンとしてオリジナル・メンバーだったスティーヴ・ボリル(b)、ジュリアン・キューザック(vn,p)、それにフェアポート・コンヴェンションのデイヴ・マタックス(ds)などが参加している。

アルバムは(アナログ盤でいうと)A面が4曲、B面が3曲と少なめで、冒頭の曲は8分超、最後の曲は13分を超えるという長い曲なのが目立つ。
まったく知らないミュージシャンのアルバム(しかもブリティッシュ・フォーク…笑)に、こうした長い曲が入っているとついつい心配してしまうものだが、この2曲がじつにすばらしい!!

1曲めの「The Furthest Point」は組曲仕立てで、ケルティックな響きも感じられるアコースティック・ギターのアルペジオからフルートとチェロが加わり、さらにトランペットが入ってきて中世を思わせるような美しいメロディーが展開する。
いったん曲がフェイド・アウトするとギターとチェロをバックにマーティンの朗読のようなヴォーカルが始まり…(え? あんまり聞きたくないような展開だ?…あはは、でもここからがかっこいいんで、)リズムがステディになってきてドラムが入ると、ピアノと一緒にバーバラのヴォーカルが入ってくる。
この瞬間がほんとうにすばらしいので、モノクロームの精密な風景画にぱあーっと色彩が載せられていくような劇的な美しさがある。
立川が天使のようなヴォーカルと書いているのはけっして誇張でもなんでもない。
ピアノが新しいテーマを導くとマーティンとバーバラのデュエットになり、さらにトランペットとともに次の曲想に展開していくうちに8分があっという間に過ぎてしまう。
マーティン・コッカハムという人はじつに才能豊かな人だ。

M-2Old Boot Wine」は2nd アルバムのタイトルと同名だが、ギター、チェロ、フルートをバックにした静かなバラードで、バーバラの声の美質がいかんなく発揮された傑作。
M-3Parallel Lines Never Separate」はディラン風のマーティンのヴォーカルから始まるが、タイトルが表すようにデュエットで歌われる美しい曲だ。

バーバラのヴォーカルが夢幻の世界にいざなうかのようなM-5An Everyday Consumption Song」、マーティンのリラックスしたヴォーカルがほほえましいミディアム・ロック風の「The Sergant Says」をはさんで、最後の組曲「In the Western World」が始まる。
ピアノをバックにバーバラがしっとりと歌う導入部から、一転して急速調のギターによるリフをはさんでピッコロ・フルート?やチェロの活躍する展開部、ハンドクラップや足音のSEなども挿入しながら陰鬱なニュアンスの中間部を経て、ギターの間奏が再現され、導入部のメロディがトランペットによって高らかに歌われる最終部まで、まったく飽きさせない構成は見事というほかない。

紙ジャケはヴィニール・コーティングではないが、ニス塗りのような光沢のあるE式のシングル・スリーヴ。
解説だけで対訳はもちろん、歌詞もついていない。

   
   (はっきりとは見えないが、それがさらにバーバラの美しさを想わせる…笑)

これで2,940円というのもちょっと痛いが、ポリドール・レーベルでありながら「ストレンジ・デイズ」が企画せざるをえないこうしたマイナーなアルバムが紙ジャケでリリースされるのはありがたいことだ。


nice!(0)  コメント(8)  トラックバック(1) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 8

hamakaze_ataru

遼さん、こんにちは。
スパイロジャイラは恥ずかしながら『モーニング・ダンス』しか知りません。
ギター、チェロ、フルートなんて構成・・・魅かれますね〜
アメリカのSSW系しか興味なかったのに、なんだか最近そんな音のモノ
選んで聴くようになったのは、遼さんの影響?(笑)
また「深い森」に入って行きそうですね。
by hamakaze_ataru (2006-07-31 11:12) 

MASA

スパイロジャイラは昔から名前しか知らず全然聴いたことがないんですが、私はバーバラ・ガスキンと元ハットフィールド&ザ・ノースのデイヴ・スチュワート(ユーリズミックスの人と同姓同名)とが組んだデイヴ・ステュワート&バーバラ・ガスキンが大好きで、アルバムを4、5枚くらい出してるんですが、これがなかなかいいんです。
打ち込みとシンセによる思い切った大胆なアレンジでリトル・エヴァの「ロコモーション」とかレスリー・ゴーアの「涙のバースデイ・パーティ」のカヴァーなんかをやっていて、とってもグー!もちろんオリジナル曲もやっていますがこちらも上出来。ちょっと儚げなバーバラのヴォーカルがいいですね。遼さんにも聴いて欲しいです。シングルを除けばアルバムはCDでしか出ていませんが、でも今はすでに廃盤かも?
by MASA (2006-07-31 14:00) 

路傍の石

スパイロジャイラ最高傑作の呼び声も高いアルバムですね。かつてUKオリジナル盤が結構な値が付いていたように記憶しております。拙は10年位前に初CD化された際に興味津々で購入しました。でも、その音が記憶にありません(笑)。それ以前にこれを所有していたことすら失念しておりました。それを思い出させてくれた遼さんありがとうございます。ということで、今晩帰ったら捜索活動いたします。

MASAさんがおっしゃるスチュワート/ガスキンはポップでモダンなセンスがよかったですね。拙もお気に入りでした。確か2度ほど来日もしてますね。ファーストから3枚目までもCD持ってたはずですが、これもどこへやったんだか。。。
by 路傍の石 (2006-07-31 17:42) 

parlophone

大安さん、どうもです。

>なんだか最近そんな音のモノ
>選んで聴くようになったのは、遼さんの影響?(笑)
>また「深い森」に入って行きそうですね

もしこれがほんとうなら、こんなにうれしいことはありません。

一方では官能的なギターや情熱的なパーカッションが躍動するラテン・ロックを聴きながら、もう一方では内省的なブリティッシュ・フォークを聴き、さらにユーミンのゴージャスで同時に意味深い日本語詞の世界を味わったりしてるんですから、われながら呆れてしまいますが、この「深い森」はほんとうについついどこまでも足を踏み入れたくなるような誘惑に満ちた森ですね…。
by parlophone (2006-07-31 22:46) 

parlophone

MASAさん、どうもどうもです!

>私はバーバラ・ガスキンと…デイヴ・スチュワートとが組んだ…
>ステュワート&ガスキンが大好きで

じつは立川芳雄さんのライナーにもそのことが書いてあって、ちょっと興味を惹かれてたんですよ。

「…80年代になってから、カンタベリー派を代表するキーボード奏者の出イヴ・スチュアートと組んだスチュアート&ガスキンのコンビで、ポップでキュートな作品を多くリリースしたことで知られる」

ぼくはハットフィールド&ザ・ノースは『ロッターズ・クラブ』しか知らないんですが、なかなかおもしろかったし、MASAさんのコメントを読むとますます興味が惹かれますね~。
今後はこのあたりも紙ジャケ化してくれるとうれしいなあ~!
by parlophone (2006-07-31 22:56) 

parlophone

路傍さん、どうもです。

>かつてUKオリジナル盤が結構な値が付いていたように記憶しております

うんうん、そうでしょうね。
いかにもそんな雰囲気を持ったアルバムであることは紙ジャケからも伝わってきます。

>それ以前にこれを所有していたことすら失念しておりました
>それを思い出させてくれた遼さんありがとうございます

いえいえ、どういたしまして(笑。
CDは見つかりましたか?^^
by parlophone (2006-07-31 23:14) 

MORE

スパイロジャイラ(フュージョンのバンドとよく間違えられますな…)は確かCDで二枚持っています。
なぜかというと私もStewart & Gaskin(S&Gだ!)のファンだからです。
バーバラの歌い方って情感を出来るだけ抑えて「歌い込まない」のが特徴なんですが、これが80年代っぽいシンセ・サウンドとのミスマッチが良いのですよ…
それに選曲のセンスが良い!
ディランの「サブタレィニアン・ホ-ムシック・ブルーズ」なんてもう「ふふふ…」モンなのですよ。
Blue NileのHeat Waveをカヴァーするとこも「やるなあ」なのですよ。
付け加えるとDave Stewartさんはあの有名な方とは同名異人です。(これまたややこしい)
B.ガスキンってJ.テイバーにも通じるブリティッシュの好きなシンガーなのです。
ところで最近はどうしてるんでしょうか?
by MORE (2006-08-02 10:25) 

parlophone

MOREさん、どうもです。

>なぜかというと私もStewart & Gaskin(S&Gだ!)のファンだからです

ほんとだ~、S&Gだ!(笑

>バーバラの歌い方って情感を出来るだけ抑えて「歌い込まない」のが特徴なんですが、
>これが80年代っぽいシンセ・サウンドとのミスマッチが良いのですよ…

なるほど~、深い味わい方ですね~。

ぼくの友人でプログレ・ファン、(もちろんハットフィールド・アンド・ノースもファン)の人もスパイロジャイラは知ってましたから、ステュアート&ガスキン経由でファンになった人も多いのかもしれませんね。
それにしてもみなさん、高い評価で、やっぱスチュガス(←略すな~~)は買わなくちゃいけないみたいですね…。

彼女は一時期日本で英語教師なんかもやってたみたいですが、今もコンサート活動をしていると、立川さんのライナーには書いてありました^^
by parlophone (2006-08-02 23:10) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。