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マリオン・ブラウン 『ノヴェンバー・コットン・フラワー』 [JAZZの愛聴盤]

今から21年前、1988年に結婚したとき、ぼくは持っていたレコードのほとんどを処分してしまった。
ジャズを中心にロックやクラシックのレコードも含めておよそ700枚。
ひとつはコレクションの整理というつもりもあった。
ほとんど聴かないレコードもあったし、結婚して部屋が手狭になったということもあった。
時代はちょうどレコードからCD に移っていくところだったから、いちどコレクションをチャラにして、ほんとうに聴きたいアルバムはCD で買い直そう、というくらいの軽い気持ちだった。

あと、生活も苦しかった(笑。

高校時代からせっせと集めたたくさんの愛聴盤は35万円というお金に姿を変え、若い夫婦のつましい生活を支えるために消えていった。(←いや、そんなにかっこよくはねえか。
よーするにあっというまに使っちゃったわけね^^;)











もったいね~~~TT




その処分したレコードのなかに今回ご紹介するマリオン・ブラウンの『ノヴェンバー・コットン・フラワー』も、あった。

      mb01.jpg

そのときはまさかその後21年間もこのアルバムを聴くことができないとは思いもしなかったのだ。
3月にハンブル・パイ、カーティス・メイフィールド、トミフラの『オーヴァーシーズ』…と紙ジャケが出たとき、真っ先に買ったのがこれです。
それくらいこのアルバムが聴きたかった…。

今聴けて幸せ♪

マリオン・ブラウンというサックス奏者はフリー・ジャズのプレイヤーとしてカテゴライズされることが多いけれど、このアルバムのマリオンは、ジャズの理論や精神性の追求を置いて、唄を歌うことに専念しているように見える。

アルバムはタイトル曲の「November Cotton Flower」から始まる。
ジャケットの表も裏も綿畑一面に咲き乱れる綿花(コットン・フラワー)が写っている。
しかしじつをいうと綿に花は咲かない。
花のように見えるのは綿の種を包んでいる白い繊維だ。
しかも綿花は初夏には摘み取られてしまう。
したがって「November Cotton Flower」というのは、いってみればひとつの心象風景なのだろう。

コルトレーンとの共演でも知られるアール・メイが弾くゆったりとしたベースに導かれるようにマリオンのアルト・サックスが穏やかで牧歌的なテーマを奏でる。
すぐにヒルトン・ルイーズのピアノ・ソロになり、次いでカール・ラウシュのアコースティック・ギターがソロを引き継ぐ。
いずれもアメリカ南部の綿畑ののどかな風景を思わせるような抒情的で美しいソロだ。
やがてマリオンのソロになる。
ときおりフリーキーなトーンが混じることもあるが、テーマのメロディにもとづいた豊かで美しいアドリブだ。
そのあとに出るアール・メイのベース・ソロも味わいがある。

綿畑というと、マリオンのお祖父ちゃんか曾お祖父ちゃんぐらいの世代のころには奴隷として過酷な労働を強いられる現場であったに違いない。
しかしこの演奏に、そういうものを連想させる悲惨さも、怒りも、苛立ちも感じ取ることはできない。
あるのは穏やかで美しい唄だ。

つづくA-2「La Placita」はカリプソのリズムによる、陽気なミディアム・テンポのナンバー。
もともとアメリカ黒人の出自をたどるとアフリカから西インド諸島を経由していることが多いので、ロリンズの「セント・トーマス」にしろ、この曲にしろ、そうした背景をもっているのだろう。

B-3「Sweet Earth Flying」は同名タイトルのアルバムに収められていた曲の再演。
マイナーな曲調をもつテーマからそのままマリオンのアドリブに流れていくが、マリオンはこのアルバムでは珍しく魂の慟哭のような激しいトーンを聞かせる。


MARION BROWN "NOVEMBER COTTON FLOWER"

BAYSTATE


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MORE

ご無沙汰です。
マリオン・ブラウンということで反応しました・・・
このアルバム、未聴の一枚です。
マリオンというと私はAfternoon of a Georgia Faunで知ったという異端児であります。
まあ、そんな音楽を好んで聴くという「とんがった時代」の話ですが・・・

私も引越の際に数百枚アナログ盤を処分、ということを2度しています。
というわけで現在手元に残っているのは1500枚くらいかな?
CDも処分しようかと思っていますが、まだしていません・・・
どっちに未練があるか?と問われたら、今ではアナログ盤ですね。
CDって結局は「データ」だけですもんね。
このデータ銀盤では「オリジナル」もへったくれもない・・・

じゃあ明日はGabor Szaboでも聴こうかなあ・・・


by MORE (2009-05-21 00:23) 

parlophone

MOREさん、こんばんはー。

>私はAfternoon of a Georgia Faunで知ったという異端児であります

ぼくもそんなに深くはありませんが、アンソニー・ブラックストンやアルバート・アイラー、オーネット・コールマンといったフリー・ジャズ系のアーティストを聴いていたころがありました。
しかしブラックストンにかんしては、とうとう面白いとは思えませんでしたね(笑。
『ジョージア・フォーンの午後』はタイトルだけで、中身は聴いたことがありませんが、どんな感じなのでしょう。

>私も引越の際に…現在手元に残っているのは1500枚くらいかな?

すごいですねー。
アナログ1500枚、というと重さだけでも相当なものですよね。
ぼくもどちらに愛着があるかといえばアナログ盤ですが、最近はiPod に入れてシャッフルというのがもっとも身近な楽しみ方で、コアなファンからは怒られそうです(笑。

ガボール・ザボ、名前は知ってますが、聴いたことはありません。
ベンソンがカヴァーした「ブリージン」は有名ですよね。
でもぼくにとってはサンタナつながりの人です(笑。

by parlophone (2009-05-22 00:36) 

MORE

>『ジョージア・フォーンの午後』はタイトルだけで、
>中身は聴いたことがありませんが、どんな感じなのでしょう。

落ち込んだときに夜中に独りでヘッドフォーンで聴くことだけは避けた方が良い音楽です・・・

ガボール・ザボのギター・サウンドは今で言うとビル・フリゼルが非常に近いですね。彼は絶対影響を受けていると思います。
Wes MontgomeryとGrant Green,そしてザボの3人は60年代から積極的にロックやソウル系のナンバーをレパートリーに取り入れた先駆者です。そのため頭の固いジャズ・ファンからはお叱りを受けていたと思いますが・・・
これからの季節、ザボの音は合いますよー。

あ、私もアナログは棚に入っているだけで、普段はPCに取り込んだ圧縮音源を聴いています。(笑)
by MORE (2009-05-22 10:36) 

parlophone

>落ち込んだときに夜中に独りでヘッドフォーンで聴くことだけは避けた方が良い
>音楽です・・・

わかる~(笑。
ぼくはアルバート・アイラーの『ゴースト』がけっこう好きだったんですけど、夏の暑い昼下がりに窓を開け放した部屋で、エアコンのスイッチを切って、アンプのヴォリュームを上げて聴いていると、ほとんど別の世界に逝ってしまいそうで、そういう感覚が好きでした。
軽い脱水症状かなんかでちょっと失神する手前みたいな感じだったのかもしれませんが(笑。

>ガボール・ザボのギター・サウンドは今で言うとビル・フリゼルが非常に近い

うっ! まったくわかりません…汗。

>これからの季節、ザボの音は合いますよー

なんかよさげですね~。
今度ちょっと探してみます^^

>普段はPCに取り込んだ圧縮音源

やっぱそうなっちゃいますよねー(笑。

by parlophone (2009-05-22 23:52) 

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