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『キャス・エリオット』 [フィメイル・ヴォーカル、ガール・ポップ]

きょうは昨年10月に紙ジャケでリリースされた、キャス・エリオットの同名タイトルのアルバムをご紹介しよう。
キャスはいわずと知れたママス・アンド・パパスのヴォーカリストとして一世を風靡した人だが、とにかく人望が厚く、ジョン・セバスチャンやグレアム・ナッシュ、スティーヴン・スティルス、デイヴ・メイソンといった人々との繋がりも忘れがたい。
グループ解散後はベスト・アルバムも含め8枚のソロ・アルバムをリリースしているが、きょうご紹介する『キャス・エリオット』はRCA移籍第1弾として1972年にリリースされたアルバムで、ソロとしては第6作となる。

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このアルバムを大きく特徴づけているのは、アレンジにモダン・ジャズ界の有名なテナー・サックス奏者ベニー・ゴルソンが起用されていることだ。
ゴルソンは黄金時代のアート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズのメンバーとしても有名だが、ウネウネとつづくサックス・ソロ(笑)よりも、コンポーザー、アレンジャーとして名高い。
ジャズ・メッセンジャーズの代表的名盤『モーニン』のアレンジも彼だし、コンポーザーとしても「アイ・リメンバー・クリフォード」を初めとして素晴らしい曲をたくさん書いている。
最近では映画『ターミナル』で、トム・ハンクス演じる主人公がニューヨークに来たのもゴルソンのサインをもらうためだった。
さて、このアルバムにおけるゴルソンのアレンジは、ブラスやホーンを配したジャジーなものよりはストリングスを用いた流麗なものが多いが、さすがに甘すぎないところがいい。

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(歌詞が印刷されたゲイトフォールド・スリーヴの内側)

ヴァン・マッコイ作のブリル・ビルディング風M-2「ベイビー・アイム・ユアーズ」、ボビー・ダーリンが書いて、ジェリー&ザ・ペースメイカーズでヒットしたM-6「アイル・ビー・ゼア」のようなポップ・チューンから、ランディ・ニューマンの美しいM-1「I'll Be Home」やジュディ・シルのM-3「Jesus Was a Cross Maker」のようにソウルフルなナンバー、カール・フォルティナのミュゼット(アコーディオンの一種)がノスタルジックな雰囲気を醸し出すM-4「ザット・ソング」、実妹リア・カンケル作の切ない名バラードM-5「When It Doesn't Work Out」、そしてブルース・ジョンストン畢生の名作M-7「ディズニー・ガールズ」など、まず選曲が素晴らしい。
もちろんキャスの歌唱も見事だ。
とくに声の表情の使い分けが巧みで、さまざまな人生を演じ分ける女優のような幅のある表現力に驚かされる。

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(バック・スリーヴ)

バックはL.A.の一流ミュージシャンたちで、ギターにはラリー・カールトンやアル・ケイシーの名前も見える。
さらに「ディズニー・ガールズ」ではブルース自身がフェンダー・ローズを弾いていて、コーラスにはカール・ウィルソンやハイ・ロウズのクラーク・バロウズとともに参加している(クレジットが"The Hi Beach Mamas"になっている^^)。

プロデュースはヴァン・モリソンの名作『アストラル・ウィークス』のルイス・メレンスタイン。

ジョン・セバスチャンが書いたM-11「We'll See」など2曲の未発表曲がボーナス・トラックとして収録されている。
2009年のデジタル・リマスタリングで音も悪くない。

紙ジャケはコーティングのない厚紙A式のゲイトフォールド・スリーヴ。

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モノクロの物憂い表情のママのポートレイトが印象的だ。
レーベルはカスタム・レーベルになっているが、これがオリジナルなのだろうか。

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(右上に見えているのは日本語解説書)

なお、RCAは2008年までBMGグループに属していたが、BMGが2009年にSony Musicの完全子会社となったためRCAレーベルの音源もSony Musicからリリースされることになった。
ということで、紙ジャケが税込1995円なのはうれしいかぎりだ。

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MORE

キャス・エリオットと言うとハムサンドウィッチを喉に詰まらせて死んだ歌手」として歴史に残ってしまいましたが・・・
ママパパ時代は特にステージでは中心的存在であったようですね。
歌手としての実力はグループの中でも飛び抜けていたので、ソロ活動にはとても期待したのですが、どうも彼女自身(と同時にレコード会社の思惑)がどんな方向を目指していたのか、試行錯誤を繰り返すだけで結局この世から去ってしまった感があります。
あのママパパのゴールデン・ハーモニー無しでどうやって自分自身の個性を発揮するのか、期待が大きかっただけに残念です。
Dave Masonとの共作も不発に終わってしまいましたしね・・・
それでもママキャスの歌声はこれからもCalifornia Dreamin'を聴く人達の心に響き続けると思います。
by MORE (2010-02-23 10:42) 

MORE

うっかりして書き忘れましたが、ソロ・アルバムの中でもイチオシはこのアルバムです。
ジャケットは地味ですが・・・
by MORE (2010-02-23 10:44) 

parlophone

MOREさん、こんばんはー。

>キャス・エリオットと言うとハムサンドウィッチを喉に詰まらせて死んだ歌手

解説の長門芳郎はキャスの死因が心臓発作だったことにふれ、「ハムサンドウィッチを喉に詰まらせて死亡した」という誤報を面白おかしくネタにする人々を「不謹慎な輩」と書いています。
早くこういうつまらないデマが払拭されるといいですね。

>どうも彼女自身(と同時にレコード会社の思惑)がどんな方向を目指していたのか、
>試行錯誤を繰り返すだけで結局この世から去ってしまった感があります

けっきょくダンヒルという会社が彼女の真の資質を見抜けなかったということでしょうね。
時代的な不運というのもあったかも知れませんが。

>ソロ・アルバムの中でもイチオシ

ぼくは1stソロを聴いたことがないので、そちらも聴いてみたいですね。

by parlophone (2010-02-24 00:39) 

Backstreets

遼さん、こんばんは。
RCAに移籍して、今度こそフォーク・ロックでもなくバブルガムでもない自分の志向する音楽を心置きなく表現しようとしたキャス・エリオット。タイトルに『Cass Elliot』と自分の名前を名付けたところにも彼女の意気込みが伝わって来るようです。ランディ・ニューマンやジュディ・シルといったシンガー・ソング・ライターの曲を取り上げているのも興味深いところ。年齢を重ねていけばもっといい歌を歌えたと思うと誠に残念です。
私もこのアルバムを記事にしましたが、遼さんの熱意と愛情が込められた文章を拝読し、つくづく自分の書いたものが稚拙であることを悟りました。とてもトラックバックなど送れません。
by Backstreets (2010-02-26 18:55) 

parlophone

Backstreetsさん、こんばんはー。

>私もこのアルバムを記事にしましたが

いま拝見しましたが、すばらしい記事じゃないですか!
トラックバックこそはブログのもっとも素晴らしい点だと思います。
Backstreetsさんも遠慮なさらずにぜひトラバしていただきたいと思います。
こちらからもトラバさせていただきたいと思います。
よろしくお願いいたします。

>タイトルに『Cass Elliot』と自分の名前を名付けたところにも彼女の意気込みが
>伝わって来るようです

たしかにおっしゃるとおりですね。
6作目にしてはじめて自分の名前をタイトルにするというのは、それなりの想いがあったということですよね。
アルバム自体はそれほどのヒットにはならなかったようですが、ママキャスのキャリアのなかで確実にポップス史に残る名作になったと思います。

by parlophone (2010-02-27 01:02) 

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