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プリファブ・スプラウトのアルバム―part 2 [紙ジャケ]

part 1で書いたように、2ndアルバム『スティーヴ・マックイーン』のリリース直後の1985年9月、パディは『プロテスト・ソングス』という名のアルバムをわずか2週間で完成させていた。
UK/CBSの判断でお蔵入りになってしまった幻の『プロテスト・ソングス』は、レコーディングから4年後の1989年6月、3rdアルバム『ラングレー・パークからの挨拶状』につづくアルバムとしてリリースされた。

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その背後にはどうやらブートレグによる音源の流出があったようなのだが、そうした業界の思惑に振りまわされることに対する反発もあったのだろう、パディは『プロテスト・ソングス』がニュー・アルバムとして聴かれることを拒否、プロモーションなどもいっさい行わなかったという。
そうしたゴタゴタとは関係なく、『プロテスト・ソングス』はじつにすばらしい作品だ。
セルフ・プロデュースによって、ゴージャスではないけれど歌のもつインティメイトな、あるいは切実な情感を込めた『プロテスト・ソングス』の音楽は、意外に思われるかもしれないけれど、ぼくにはポール・サイモンの『ソング・ブック』を想起させる。
それはアコースティック・ギターの弾き語りによって歌われるM-5「Dublin」のような曲はもちろん、のちにベスト盤のタイトルになるM-2「Life of Suprises」、M-3「Horsechimes」やM-6「Tiffanys」のようなバンド・サウンドでときにパディがシャウトする曲、あるいはウェンディの囁くようなヴォーカルで始まり終わるM-8「Talking Scarlet」などでも感じられる肌触りなのだ。

紙ジャケはコーティングのないE式のシングル・スリーヴで、さらっとした手触りのテクスチャー仕様。
チェリー・レッドともいえるようなピンク系の色彩が基調になっていて、憂いに沈んだようなウェンディの表情がすばらしい。

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歌詞の印刷されたインナーが復刻されていて、そこには
protest songs was originally to be released in december 1985 and chronologically belongs between steve mcqueen and from langley park to memphis.
と書かれている。
2009年デジタル・リマスター。

『ヨルダン:ザ・カム・バック』は翌1990年の8月にリリースされた彼らの5枚めのアルバムだ。

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M-1「Looking for Atlantis」で始まりM-19「Do Wap in Harlem」で終わる全19曲、64分というヴォリュームは完全にCDのフォーマットを想定して作成されたはずで、アナログ盤なら2枚組になっていただろう。
渡辺亨の解説によると本来はそれぞれ違ったテーマをもった3つの組曲からなるはずだったようだ。
たとえばM-7「Jesse James Symphony」やM-8「Jesse James Bolero」のように伝説のならず者ジェシー・ジェイムズやM-3「Machine Gun Ibiza」のようにワルを歌った曲があるかと思えばM-6「Jordan: the Comeback」やM-15「One of Broken」、M-16「Michael」、M-18「Scarlet Nights」のようにヨルダン川やモーゼ、ダビデ王、そして大天使ミカエルやルシファーが登場する宗教的な歌詞をもった曲も多い。
そしてM-2「Wild Horses」(ジャガー&リチャーズのあの曲とはもちろん同名異曲)やM-4「We Let the Stars Go」、M-10「All the World Loves Lovers 」、M-11「All Boys Believe Anything」のようなロマンティックなバラード、デキシーランド・ジャズ風のM-14「Wedding March」、そして前述のボレロやM-5「Carnival 2000」のようなラテン色の楽曲まで、じつにヴァラエティ豊かだ。
そしてあらゆる曲がほんとうに美しい。
スペインを起源とする舞曲ボレロはみなさんご存知だと思うが、あの「ベックス・ボレロ」とおなじリズムを用いながら「Jesse James Symphony」から「Jesse James Bolero」への流れなど、ほんとうにうっとりするほど美しいのだ。
ネットなどを見ると『マックイーン』と並んで本作をプリファブの最高傑作に推す声が多い。
プロデュースはトーマス・ドルビー。

紙ジャケはこちらもコーティングのないE式のシングル・スリーヴで、おなじようにさらっとした手触りのテクスチャー仕様になっている。

歌詞の印刷されたインナー・スリーヴがミニチュアで復刻されている。

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『プロテスト~』と『ヨルダン』は同心円の描かれた黒いEpicレーベルになっている。
2009年デジタル・リマスター。

6thアルバム『アンドロメダ・ハイツ』は前作から7年後!の1997年にリリースされた。

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トーマス・ドルビー・プロデュースの前作『ヨルダン:ザ・カム・バック』のリリース後、またしてもパディはシンプルな音作りによる作品をめざし、デモ録音まで済ませたという。
アルバム・タイトルは『レッツ・チェンジ・ザ・ワールド・ウィズ・ミュージック』!!。
さらにこれと並行して『アース:ザ・ストーリー・ソー・ファー』という作品作りにも着手していたらしい。
いやはや、まったくパディの頭のなかはどうなっているのやら…。
ところがけっきょく完成したのは『アンドロメダ・ハイツ』という、パディの個人スタジオの名前をそのままタイトルにしたアルバム。
プロデュースには(最初の予定ではトーマス・ドルビーだったらしいが、けっきょく)パディ自身があたっている。
ただ楽曲自体はフルートやサックスが入ったりストリングスがかぶさったり、割と作り込まれていて、ドルビーのプロデュースに近い感じがする。

個人的にはいまいちばん気に入っているのが、このアルバム。
曲の美しさもさることながら、それまでどうにも難解だったパディの歌詞が、かなりシンプルになっていて、このぼくでさえだいたいの意味だったらわかる(笑。
M-2「A Prisoner of the Past」とか、M-3「The Mystery of Love」とか、M-5「Anne Marie」とか、M-6「Whoever You Are 」とかタイトルだけでラヴ・ソングというのはわかるけれども、歌詞が切なくて曲がまるで星空のように美しいのだから、ちょっとセンシティヴな人だったら聴いてるうちにきっと泣きます!

紙ジャケはやはりコーティングのないE式のシングル・スリーヴで、テクスチャー仕様。
美しいジャケットの装画はアン・マッギル(Anne Magill)という人の作品だ。
歌詞とモノクロの写真の載った16ページのブックレットがついている。

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レーベルはこれも星座を映した美しいカスタム・レーベルになっている。

音源はやはり2009年のデジタル・リマスター。

なおこの作品からドラムスのニール・コンティが抜けて3人編成になっている。

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(今回の一連の記事を書くにあたって、紙ジャケ封入の解説書を参考にさせていただきました)
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へどろん

こんばんは〜♪
いやぁ、アンドロメダ〜紙ジャケ、いいっすね〜♪
欲しいけど、レーベルもブックもプラケと同じみたいなんでガマン我慢♪でも、いい音なんだろうなぁ…♪

プロテスト〜とヨルダン〜、Kichenwareのレーベルは再現できなかったんですね…エピック…

自分もヨルダン〜の記事、まぁ紙ジャケじゃなくてレコなんですけどアップしたんで、調子に乗ってトラックバックさせてもらいますよ♪さぁ〜、うまく出来るかな〜、うふ♪
by へどろん (2009-11-24 22:21) 

MORE

今回のリマスターですが2009年とのこと、これって日本独自のリマスターなんでしょうか、それとも?
もともと彼らのアルバムは音質的に満足のいくものでしたが、リマスターの効果(?)はどんなんでしょうか、気になります。

でも、なんでJordanを日本では「ヨルダン」と表記するんですかね。
パディーは「ジョーダン」とハッキリ発音しているんですけど・・・
じゃあ、シカゴブルズのマイケル・ヨルダン???

Andromeda Heightsの歌詞のシンプル&ストレートさは私も感じていました。
パディーが目指している音楽と時代の流れとの「ずれ」についての彼の苦悩が表れていますね。
ブライアン・ウィルソンがPet Soundsで訴えていたことと通じるところがあります。
最新作、Let's Change The World With Musicも是非聴いてください。
打ち込みのサウンドはちょっとだけ残念ですが、パディーの「うるうるメロディーライン」は健在です!

それにしてもWendyはソロ・アルバムとか作る気はないんでしょうか・・・
by MORE (2009-11-24 22:42) 

parlophone

へどろんさん、こんばんはー。

>欲しいけど、レーベルもブックもプラケと同じみたいなんでガマン我慢♪

ぼくが最初にタケシくんに借りたのはプラケでしたが、星空の輝きはプラケのほうが出ていると思います。
アナログが出なかったのなら、あのプラケの美しさはパディのこだわりなのかもしれませんね。
音はどうでしょう?
プラケのほうもそんなに悪い音ではないですよね。

紙ジャケはボートラが1曲ついてますが、要らないような気がします^^;

あ、こちらからもトラバさせていただきますので、よろしくお願いします♪
by parlophone (2009-11-24 23:32) 

parlophone

MOREさん、こんばんは。

>今回のリマスターですが…日本独自のリマスターなんでしょうか、それとも?

帯に表記があるだけで解説書にはなんの説明もないので、おそらく日本独自のリマスターではないかと思います。
ぼくが最初に聴いたのはタケシくんに借りたプラケでしたが、音はそんなに悪くはなかったと思います。
ただ、音圧は上がってるんじゃないかな。
ちょっと気になったのは『プロテスト・ソングス』の紙ジャケはサ行の強調が感じられます…。

>でも、なんでJordanを日本では「ヨルダン」と表記するんですかね

国や地域の名前は英語読みじゃなくて現地の発音に近づけているのではないでしょうか。
「パリス」じゃなくて「パリ」のように…。

>じゃあ、シカゴブルズのマイケル・ヨルダン???

ぼくも反対のことを「JAZZの愛聴盤」のところで書きました。
デューク・ジョーダンのアルバムの日本語表記は『フライト・トゥ・ジョーダン』よりも『フライト・トゥ・ヨルダン』のほうがわかりやすいって(笑。
http://parlophone.fc2web.com/JAZZ/jazz06.html#2

>パディーが目指している音楽と時代の流れとの「ずれ」についての彼の
>苦悩が表れていますね

なるほど、そういうことがあるのかあ。
MOREさんに言われるまで気づきませんでしたが、そうなんでしょうね。
やっぱり天才ゆえの苦悩というのがあるんですね…。

>Let's Change The World With Musicも是非

ええ、聴いてますよー。
次回の記事で取り上げる予定です^^

>それにしてもWendyはソロ・アルバムとか作る気はないんでしょうか・・・

ほんとですよねー。
あの可憐なウィスパリング・ヴォイスでアルバム作ってほしいですね♪
by parlophone (2009-11-24 23:46) 

ミネちゃん

こんにちは。
アンドロメダも当時購入したのですが、ヨルダン大好きな私にはどうも馴染めず、売ってしまいました。
今回買い直して、そんな悪くはないなと思いましたが、やはりウェンデイのコーラスが後退しているのが、そう思った理由でしょう。
「We Let the Stars Go」や「All the World Loves Lovers 」は大好きです。
ヨルダンのプラケと比較すると、確かに音圧があがって、音の輪郭がくっきりしていると思います。
ちなみに、ウェンディは引退して、学校の先生をやっていると、どこかのサイトで見ました。
by ミネちゃん (2009-11-25 10:50) 

parlophone

ミネちゃんさん、こんばんはー。

>今回買い直して、そんな悪くはないなと思いましたが、
>やはりウェンデイのコーラスが後退しているのが、そう思った理由でしょう

そうなんですかー。
やはり人それぞれ感じ方が違いますね。
そうすると、今回の新作『レッツ・チェンジ・ザ・ワールド・ウィズ・ミュージック』(タイトルをカタカナで打つとさすがに長い…^^;)なんかはお気に召さないかもしれませんね。
なにしろウェンディが入ってないどころじゃなくてパディのソロですからね。

>ウェンディは引退して、学校の先生をやっている

そういえばタケシくんもそう言ってたなあ。
もう戻ってくることはないんでしょうかねえ。
残念だなあー。
by parlophone (2009-11-25 23:37) 

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