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佐藤良明 『ビートルズとは何だったのか』 [雑誌・書籍・コミック]

きょうは「リマスター盤前夜祭」の記事で書名だけ挙げておいた、みすず書房の『ビートルズとは何だったのか』という本をご紹介しよう。

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じつはこの本を読んだのは昨年のことだ。
出先で思いがけなく仕事が早く終わってしまい、夕方からの会議にはまだ2時間ほど時間があるということがあった。
どうやって時間を潰そうと思い巡らしているときに、近くに小さな公立図書館があったことを思い出して、立ち寄ってみた。
音楽関係の本を3冊ばかり棚から選び出し、机の前に座って最初に開いたのがこの本だった。
あっという間に引き込まれてしまい、夢中で読み終えた。
気がつくと会議の時間が迫っている。
あやうく遅刻するところだった…(笑。

著者の佐藤良明は東大の教授である。
巻末の著者紹介によるとアメリカ文学、ポピュラー音楽文化論、メディア文化論が専門で、現代アメリカの文学・文化・音楽を起点にした研究・評論を行っているらしい。
ぼくが読んだのは単行本だった気がするのだが、今回手に入れた本は"叢書"版といえばいいのだろうか、新書版よりはやや大きな版型である。

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(新書版よりちょっと大きめでその分ちょっと高い^^;)

はっきりとは書いてないのだが、2006年に東大で行った授業を記録したものだろう。
やっぱ東大の授業っておもいろいなあ~(笑。
文字化された東大の授業で音楽関係のものといえば、最近文庫化された『東京大学のアルバート・アイラー』が有名だが、いやー、この本も負けず劣らず刺激的でおもしろい。

内容は大きく3つに分かれていて、それぞれ
 第1回 世界史の中のビートルズ
 第2回 ビートルズの音楽革命
 第3回 オール・トゥゲザー・ナウ!
というタイトルがついている。
ビートルズを世界史のなかで、音楽史のなかで、そして英語詞の方面から捉えなおすという試みである。

たとえば第1回はビートルズとSMAPの比較から始まり、大英帝国の没落、50年代のアメリカの商業音楽、そして60年代の、キューバ危機や公民権運動の隆盛といった政治の大きなうねりのなかから浮かび上がるビートルズという現象を取り上げていく。
第2回ではアイルランドあたりのケルト系音楽とアフリカ起源の黒人の音楽がアメリカで混ざり合い、また分離してC&WとR&Bになり、再び融合してロックン・ロールになっていくようすと、初期のビートルズ・ミュージックの特徴をわかりやすく解説している。

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(音楽理論をよく知らない人でもわかりやすい記述)

ぼくはこの本を読みながら、たとえば小学校の音楽教室には必ずバッハやハイドンから始まってフォスターや山田耕筰の肖像画が並べられていた理由や、1934年(昭和9年!!)にリリースされたディック・ミネの「ダイナ」の伴奏が恐ろしいほど洗練されたジャズ・ミュージックになっている理由、さらには「ラヴ・ミー・ドゥ」が思ったほど売れなかったのに「プリーズ・プリーズ・ミー」が全英№1になったわけ等々…がすんなりと理解できて、ほんとうに目から鱗がボロボロ落ちる思いがしたのだった。

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(家にピアノがある人はちょっと鍵盤に触ってみるとさらに理解しやすい)

さらに第3回では詞の分野からビートルズの音楽の革新性を解いているのだが、とくに「For No One」の楽曲解説には思わず唸ってしまった。
音楽評論を目指している人はこういう文章を読んで腕を磨いてほしいものだ。

1300円はちと高いが、リマスター盤を聴きながらこの本を読めばビートルズのすごさがほんとうに多角的に理解できて、感動がさらに高まることは必至である。
おススメです。

なお第2回の音楽史の部分はページ数にして約40ページと、かなり駆け足の授業になっているので、そのあたりをもう少し丁寧にたどりたい方は、前述の『東京大学のアルバート・アイラー(とくに歴史編)』(菊地成孔+大谷能生)も必読です。

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併せておススメ~^^

ビートルズとは何だったのか (理想の教室)

ビートルズとは何だったのか (理想の教室)

  • 作者: 佐藤 良明
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 2006/02
  • メディア: 単行本



東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編 (文春文庫)

東京大学のアルバート・アイラー―東大ジャズ講義録・歴史編 (文春文庫)

  • 作者: 菊地 成孔
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/03/10
  • メディア: 文庫



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コメント 10

ryo

実に興味深いなぁ。
当時は「不良の集団」として扱われながらも、現在では教科書に載っちゃってますからね。
ほんと、ビートルズってなんなんでしょうね(笑)。
音楽室にジョンやポールの絵が飾られるのも時間の問題!?
by ryo (2009-10-08 00:08) 

MORE

私も大学(首都圏某国立大学)の特別講義でローランド・カークとザッパの音楽をかたっぱしからかけながら(先生持込のステレオ・セット)発想とは何か、創造とは何かという衝撃的な授業がありました。
ビートルズとアイラーの分析も面白そうですね。
でも、そのアイラーの講義っていつ頃あったのでしょうか?
最近の学生でアイラーを知っている割合って小数点以下でしょうね・・・
by MORE (2009-10-08 09:45) 

Cold Sun

遼さん、こんにちは
最近、ザ・ビートルズ・サウンド最後の真実は購入しました。「ひねってワオ!」どんどん散財してます。
この本、近所の図書館に置いてないかなぁ~
J.S.バッハは、バロック時代に現れた「クラシック音楽の父」ならば、
ビートルズとは、ロック時代に現れた『ポピュラー音楽の父』だった!!!
リマスターを聴き込むほど、そう思えます。
調性音楽の魔術師、バッハとビートルズ!!!
下積み時代のビートルズがドイツで修行したのも何かの縁でしょうね。
by Cold Sun (2009-10-08 15:49) 

parlophone

ryoさん、こんばんはー。

>当時は「不良の集団」として扱われながらも、現在では教科書に
>載っちゃってますからね

ですよねー。
ぼくなんかビートルズといっしょに育ちましたから、教科書に載るなんて夢にも思いませんでしたけどね(笑。

>音楽室にジョンやポールの絵が飾られるのも時間の問題!?

わはは、そうなったら愉快ですね^^
by parlophone (2009-10-08 22:09) 

parlophone

MOREさん、こんばんはー。

>私も大学(首都圏某国立大学)の特別講義でローランド・カークとザッパの音楽を
>かたっぱしからかけながら(先生持込のステレオ・セット)発想とは何か、
>創造とは何かという衝撃的な授業がありました

すごいですねー。
そんな授業あったらぼくも聴いてみたいー。
ザッパはあんまり知りませんけどローランド・カークは大好きですね~。

>そのアイラーの講義っていつ頃あったのでしょうか?

2004年だったと思います。
もちろんほとんどはジャズですが、ジョン・リー・フッカーからエルヴィスからもちろんビートルズ、JBやらスライやらEW&Fやら音源かけまくりですからねー。
でもアイラーの分析らしきものはありません。
「発狂の喜び」とか「統合不全的」とか「普通にタワレコで買えるんですよ」とか言ってるぐらいですから(笑。
やはり時間を割いてるのはマイルスやコルトレーンですね~。
by parlophone (2009-10-08 22:26) 

parlophone

Cold Sunさん、こんばんは~。

>ザ・ビートルズ・サウンド最後の真実は購入しました
>「ひねってワオ!」どんどん散財してます

あらら~。
やっぱりビートルズはお金がかかりますね…^^;

>この本、近所の図書館に置いてないかなぁ~

なければリクエストするとか(笑。

>調性音楽の魔術師、バッハとビートルズ!!!

いやいやほんとにそうですよね。
冷静に考えると63年から69年までの7年間にビートルズが生み出したものって、常識の範囲をはるかに超えてますよね。

>下積み時代のビートルズがドイツで修行したのも何かの縁でしょうね

ほんと、深いですねー。
by parlophone (2009-10-08 22:32) 

Backstreets

遼さん、こんばんは。
著書『ラバーソウルの弾み方』やトマス・ピンチョンの研究で知られる元東大教授の佐藤良明先生。NHK教育で放送された「ジュークボックス英会話 歌詞から学ぶ感情表現」では奇をてらったパフォーマンスやおやじギャグが少々気になりましたが、歌詞に込められたアーティストの思いを読み解きながら英語での気持ちの表し方を理解し習得するといった内容は興味深かったものです。
大学教授の理論が全てとは思いませんが、この本は面白そうですね。疑問符の付く文章を書く音楽評論家が多い中、的確な論が展開されているような期待が持てました。
by Backstreets (2009-10-09 18:47) 

parlophone

Backstreetsさん、こんばんは!

>著書『ラバーソウルの弾み方』やトマス・ピンチョンの研究で知られる

わ~、どちらも知りません^^;
『ラバー~』のほうは著者紹介のところには書いてありましたが…。

>NHK教育で放送された「ジュークボックス英会話 歌詞から学ぶ感情表現」

ほー、そんな番組もあったんですねー。
ふだんはNHKもまったく見ないので、こちらもまったく知りません。

>歌詞に込められたアーティストの思いを読み解きながら

『ビートルズとは何だったのか』でもそういうアプローチでしたね。
英語の授業改革などにも取り組んできた方のようなので、単なる解釈ではないところが新鮮でした。

>的確な論が展開されているような期待が持てました

個人的には思わずなるほど!と納得するようなところが多かったですね。
ぜひBackstreetsさんにも読んでいただきたい好著だと思います。
by parlophone (2009-10-09 23:42) 

DEBDYLAN

遼さん、こんばんは。

この本、以前の記事で紹介してたときから気になってて、
この記事もアップされた後に読んでました。
(だったらコメントしろよ!!^^;)

で。
週末にでもコメントをって思ってたら。。。
日曜日(昨日)、図書館に行ったらこの本があったんですよ!!
さっそく借りて一通りざっと読みました。

歴史や時事と絡めて音楽を語る手法。
苦手な方もいると思いますが、
僕は好きなんで、この本気に入っちゃいました^^。
(以前ミンガスの「フォーバス知事の寓話」の件でやりとりを
 させていただいたんで遼さんもわかっていただいてるかもですが)

話の展開もわかりやすいですね。

遼さんも記事で書いてる「FOR NO ONE」のくだりは圧巻ですね。

音のイメージやリズムを表現するのに文中で使われてる擬音語。
コレが適格に表現されてるのも音楽を理解してるから書けるんだって、
偉そうに関心してました^^。

今日はできなかったけど。
遼さんが仰ってるように、楽器持ちながら読んでみたい本ですね。
僕だったらギターかな?
mini meのおもちゃのキーボードもあるしw

今度はじっくりと読んでみます。

僕の話になるんですが^^;
一緒に借りてきた本で、
『真実のビートルズ・サウンド』って本があります。
学研新書の1冊です。

著者は川瀬泰雄。
井上陽水や浜田省吾、山口百恵などのプロデューサーをしてたみたいです。

まだ未読なんですが、
遼さんは読んだことありますか?

by DEBDYLAN (2009-10-13 00:10) 

parlophone

DEBDYLANさん、こんばんはー。

>日曜日(昨日)、図書館に行ったらこの本があったんですよ!!

すごーい! 近くにあってよかったですね^^
この本が置いてある図書館って意外に多いのかもしれませんね。
みすず書房ってけっこう良書が多いので、図書館の司書の方とかにも人気があるのかな?

>歴史や時事と絡めて音楽を語る手法…
>僕は好きなんで、この本気に入っちゃいました^^

最初に前夜祭で紹介したときからDEBDYLANさんは気になるっておっしゃってましたが、公民権運動なんかを勉強されてきたDEBDYLANさんならきっと気に入ってくれるんじゃないかと思ってました。

>擬音語 コレが適格に表現されてるのも音楽を理解してるから書けるんだって、
>偉そうに感心してました^^

わあ、ぜんぜん気がつきませんでした。
さすがです。
今度読むときはそんなところにも気をつけてみますね^^

『真実のビートルズ・サウンド』って本があります

これは新聞の広告で見て、書店で立ち読みしました。
どんな内容だったか記憶に残ってないんですが…^^;
by parlophone (2009-10-14 21:59) 

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