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『紅雀』――ユーミンのアルバム(by 3 songs) [ユーミン]

ぬぁ~んと一年ぶりのご無沙汰でした!
このシリーズ、前回の『14番目の月』をUPしたのが昨年の3月21日だから、正確にいうと1年2か月ぶりの記事ということになる。
いくらなんでも間空きすぎ~!
だれか読んでくれる人いるのかなーー(笑。
さて、今回は5th アルバム『紅雀』。
たぶんみなさんのイメージのなかではかなり地味なアルバム、という印象でしょう。
けれど、ぼくがターンテーブルに載せる率が最も高いのがこのアルバムなのである。

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それでは行ってみよう!

ユーミンの5枚めのオリジナル・アルバム『紅雀』は1978年3月にリリースされた。
結婚後初のアルバムということで、それまでの作品が荒井由実名義であったのに対して、このアルバムからは松任谷由実名義になっている。

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(なんとなくぎこちない? Yumi Matsutoya のサイン^^)

前作から1年5か月ぶりのオリジナル・アルバムということもあってかリリース直後の動きは好調で、オリコンのアルバム・チャートでも最高2位を記録している。

アルバム・タイトルになっている紅雀(べにすずめ)は、その名のとおりくちばしから頭部、腹部にかけて赤い小型の洋鳥である。
「姿も鳴き声も美しいので18世紀から輸入されて」きた、とウィキペディアにある。
それにしても、MISSLIM、コバルト・アワーあたりに比べればずいぶん地味なタイトルで、ジャケットも臙脂というか赤紫の額縁のなかにユーミンの肖像、というかなり地味なイメージである。
A 式のシングル・スリーヴで、同傾向の色を使ったインナーバッグに歌詞も印刷されているという、ひどくシンプルな(というか、はっきりいえばチープな)ジャケットも、とても結婚後第1作とは思えない地味さ加減だが、こういうのが当時のユーミンの心境にはぴったりだったのだろう。
よく見るとユーミンのブラウスは薄いシルク・オーガンジーのような生地のシースルーになっているが、アルバム発売当時のFM 雑誌のフォト・セッションでもこんな感じのシャツ・ブラウスを着ていて、ユーミンも結婚して変わったなあ~というのが当時のぼくの印象だった。

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(インナーバッグとおなじみブルーのEXPRESS レーベル)

さて、このアルバムにはTed M. Gibson という人がアコースティック・ギターで加わっており、全体がしっとりとしたアコースティックな雰囲気をもっている。
アルバムは「9月には帰らない」という非常に内省的な歌詞とメロディをもつバラードで幕を開けるが、この曲もアコギで始まるイントロや、アコギとピアノがコール・アンド・レスポンス風になってそこにストリングスがまるで波の音のように入ってくる間奏なんかがとても印象的だ。
キーもぎりぎりまで下げて、「♪今はもう負けないわ」の「♪わー」を張り上げない抑えた歌唱も、この曲の魅力をよく出していると思う。

ぼくにとってはこの曲の歌詞が昔から謎で、ずいぶん意味を考えたりしたものだ。
妻に(彼女も若いころはよくユーミンを聴いていたので)歌詞の意味を尋ねたことがあるが、彼女は「歌詞なんてフィーリングなんじゃない?」と、あまり気にしていないようすだった。
たとえば「9月には帰らないって、どこに帰らないんだと思う?」と訊いたら、彼女は「9月という季節に帰らない、という意味なんじゃない?」という。
「どうして?」
「なんとなく」
日本語の曲のなかでも好きな曲は心だけなく頭でも聴いてしまうぼくは、「なんとなく」では納得できない(笑。

とくに「夏の日のはかなさをうまく言えずにバスの窓をおろしてしまう無口な人」ってだれ? って感じだ。
そこで、あるとき思いついたこの歌詞の解釈について書き留めておきたいと思う。

まず彼女のいる場所はふるさと、季節は夏だ。
「未来が霧に閉ざされていた頃」という表現は『OLIVE』の「未来は霧の中に」と共通の修辞だが、将来のことがまだよくわかっていなかった幼いころ、ぐらいの意味だろう。
「未来は霧の中に」では「私は9つ」とある。
そして問題の「無口な人」は、ぼくの解釈では夏に知り合ってつかの間の恋に落ちた青年であるような気がする(あまりにも陳腐で、せっかくの内省的な詩情をぶち壊してしまう気もするのだが…笑)。

夏が終わり、帰省していた友人たちやこの海辺の町に避暑に来ていた人たちも帰ってゆく。
でも、わたしはたった一人になったとしてももう少しこのふるさとの町に残りたいと思う。
幼いころには苦手だった潮騒の音を聴きながら、もう少し自分を見つめていたい。

あのころのわたしは潮騒の音を聞いていると、漠然とした未来ヘの不安に押しつぶされそうになって泣いたこともあった。
でも今はもう、そんな不安には負けない。

かれは都会の暮らしに戻ってゆく。
はかなく終わってしまう夏の日の出来事をどう表現していいかもわからず、無口な彼はバスの窓をおろしてしまうけれど…。
でもわたしは9月には帰らない。

つづくA-2「ハルジョオン・ヒメジョオン」はフォルクローレ調のバラード。
「熟れたように紅い夕陽」と「宵闇のなかに切り絵のように沈んでゆく煙突や家並み」という、赤と黒の強烈なコントラストをもった色彩と、「土手と空のあいだを渡ってゆく風」のひんやりとした感触。
そんななかで幼く淡い恋と若さゆえの残酷さが描れる。
二重奏のケーナ、アコギ、そして松任谷正隆の弾くマンドリンが、このもの哀しげな楽曲を抒情的に支えている。
隠し味的に使われているパーカッションもいい。

ぼくは「♪川向こうの町から宵闇が来る 煙突も家並みも切り絵になって」というAメロがすきなのだが、この曲は「ABABBB」という構成で、後半にはA メロが出てこないので、聴き終わるとすぐにもう一度聴きたくなってリピートしてしまう(笑。

つづくA-3「私なしでも」は、一転して軽やかなラテン・ビートになる。
サンバのリズムにエレクトリック・ピアノ、トランペットやサックスがオブリガードを聞かせ、間奏はソプラノ・サックスにアルト・サックスという華やかなアレンジだが、詞の内容は痛快な別れの歌だ。
78年というとぼくが大学を卒業して働き始めたころだが、ユーミンが描く世界に登場する女の子はすごくリアルで、よくドキッとさせられたものだ。
たとえば女の子ってどんなに年下でも、付き合いだした瞬間から母親みたいな口を利くものだが、この曲の出だし、
 ♪胸の上で 手を組んではだめよ
  きっと悪い夢にうなされるから
  窓を開けて寒くしてはだめよ
  毛布のような私 もういないから

なんて、ほんとにもう別れのときに女の子が言いそうで参ってしまう(笑。
けれども、サビを挟んでそのあとに出てくる「枕木ひとつずつ自由になるわ」というあまりにもクールな別れの感情は、当時としてはほんとうに斬新な表現でびっくりしたものだ。

そのほかにもボサ・ノヴァ風味のバラードA-4「地中海の感傷」、サンバのリズムとそれらしいラテン語のコーラスも雰囲気満点なB-1「罪と罰」、ヴォーカルとホーンの掛け合いがバカラック調でニヤリとしてしまうB-2「出さない手紙」、あまりに内省的であまりに短いB-3「白い朝まで」、大人びた女子高校生同士のビター・スウィートな友情を綴ったB-4「LAUNDRY-GATE の想い出」などなど、名曲が目白押し。
とりあえず今回はA 面の最初の3曲を取り上げたけれど、ピアノの弾き語りのように唄い出されるB-5「残されたもの」(ちなみにこの曲と「出さない手紙」をレコーディングしたときのユーミンは風邪を曳いていたのか、あきらかな鼻声で、初めて聴いたときその生々しい声質にゾクゾクしたものです…笑)を聴き終わると、また最初に戻って「9月には帰らない」を聴きたくなるという、困ったアルバムである。
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コメント 4

tamachi

こばんわ~ むむ! 
これは僕が一番好きなユーミンのアルバムだ。

>聴き終わると、また最初に戻って「9月には帰らない」を聴きたくなるという、困ったアルバムである。

やはり遼さんもそうでしたか..ぼくもついA面にひっくりかえしますよ(笑)
「9月には帰らない」のイントロとボーカル、間奏のピアノやストリングス..
は素晴らしいと思う。

>、「♪今はもう負けないわ」の「♪わー」を張り上げない抑えた歌唱も、この曲の魅力をよく出していると思う。
僕のプレーヤだとSHIRE VIあたりだとそうでもないのですが
M75EDで、びびらずきちんと再生できるとプレーヤのセッティングはOKとしております(笑)



by tamachi (2009-05-30 19:47) 

parlophone

tamachiさん、こんばんはー。
さっそくのコメント、ありがとうございます。

>これは僕が一番好きなユーミンのアルバムだ

ええっ! そうだったんですかー。
それはうれしいなあ。

>「9月には帰らない」のイントロとボーカル、間奏のピアノやストリングス..

いいですよね~。
ちょっと音程があやしかったりするんですが、もう全然OK(笑。

>M75EDで、びびらずきちんと再生できるとプレーヤのセッティングはOK

へえー、そんな活用法がありましたか(笑。
ぼくは久々にこのアルバムを聴いたとき、たまたまortfon のMC-20 だったんですが、いい音だなあ~と感心しました^^
by parlophone (2009-05-30 22:11) 

MASA

結婚して姓が松任谷になった途端にまるでその境目にキレイに線を引いたようにイメージが変わって落ち着いちゃったなあ、というのが当時の印象で、あまり好きになれなかったアルバムでした。

今は好きなアルバムの中に入りますが、確かに内省的で地味なんですけど、同性のみならず男心をもくすぐるユーミンの書く詩の世界はこのアルバムでも秀逸ですねえ。

で、遼さんの今回のベスト3は何なんでしょうか?^^
私は「ハルジョオン・ヒメジョオン」を聴くと切ない歌詞とメロディにいつもキュンとなります(笑)。

by MASA (2009-05-30 23:27) 

parlophone

MASAさん、こんばんはー。

>キレイに線を引いたようにイメージが変わって落ち着いちゃったなあ

ユーミンというと時代の最先端を行っていて、結婚なんかしてももっと自由に自己を主張する、みたいな勝手な思い込みがあったんですが、意外に古風にお嫁さんになっちゃった、という印象がありましたね。

>で、遼さんの今回のベスト3は何なんでしょうか?^^
>私は「ハルジョオン・ヒメジョオン」を聴くと…

ぼくも「ハルジョオン・ヒメジョオン」は弱いですね(笑。
このアルバムのリリース当初は「ハルジョオン・ヒメジョオン」、「私なしでも」、「罪と罰」という感じでしたが、今は「9月には帰らない」、「ハルジョオン・ヒメジョオン」、そしてもう1曲が、なかなか決まらない、という感じですね。
今日の気分では「地中海の感傷」です(笑。
by parlophone (2009-05-31 20:13) 

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