あるミュージシャンの死 1980年12月 [にぎやかな夜、その他の夜]
きのう1日のアクセスは1,488で、今年の下半期では3番めに多かった。
ひょっとするとジョンの記事を期待されていたのかもしれないと思うと申し訳ない気持ちになるけれど、今年はかれのことは書かない。
3年連続でジョンを追悼する記事を書いてきたということもあるが、今年はこのタイミングに合わせてジョンの紙ジャケがリリースされたせいか、ぼくの周りでもたくさんの方がとても素晴らしい追悼記事を書いていらっしゃる。
いまさらぼくが書かなくても、という気持ちになったのも確かだ。
それで(というわけでもないが)、きょうは同じ1980年12月に同じく40歳で亡くなった男のことを書く。
おそらくだれもブログで追悼記事など書かないだろう男のことを。
かれの名前はティム・ハーディン。
以下、アルバム『バード・オン・ア・ワイヤー』の会田裕之による日本語解説にもとづいて簡単に紹介する。
ボブ・ディランで有名なジョン・ウェズリー・ハーディングの子孫ともいわれるティム・ハーディンは1940年12月にオレゴンで生まれた。
66年にニューポート・フォーク・フェスティヴァルに出場したかれは、その直後にヴァーヴ・レコードと契約を結びファースト・アルバム『ティム・ハーディン 1』をリリース。
同年ボビー・ダーリンに提供した「If I Were a Carpenter」が大ヒットして、ソング・ライターとしても注目を集める。
アコースティック・ギターだけでなくエレクトリック・ギターを抱えてフォーク・ブルーズやジャズ、ラヴ・バラードを歌うティムのスタイルはボブ・ディランをはじめ多くのアーティストに影響を与えたという。
ヴァーヴで4枚のレコードをリリースした後、CBS に移籍、代表作となる『スーザン・ムーアとダミオンの為の組曲』(1969)、『バード・オン・ア・ワイヤー』(1971)などをリリースするが、1980年12月、オーヴァードーズのために死去。
40歳であった。
(左が『スーザン~』、右が『バード~』でいずれもSony Music から紙ジャケでリリースされている)
ティムのCD は以前から聴いていたけれど、その楽曲のほんとうの素晴らしさに気づかされたのは、じつはコリン・ブランストーンのソロ・アルバム『ワン・イヤー』に収められた「Misty Roses」を聴いたときだった。
その儚げで美しいメロディと、途中で入ってくる弦楽四重奏のバックにやられてしまったのだが、同じティムのデビュー・アルバムからは「Reason to Believe」もロッド・ステュワートがカヴァーしていて、多くのミュージシャンから愛されるミュージシャンだったようだ。
かれが生涯をかけて愛した妻スーザン・ムーアのことは、すでに2nd アルバム『ティム・ハーディン 2』(1967)の「Lady Came from Baltimore」で歌われているし、ジャケットにもお腹の大きな彼女が写っているが、先月Sony Music から紙ジャケでリリースされた『スーザン・ムーアとダミオンの為の組曲』では、シャネルとおぼしきスーツを着た気品ある美しいスーザンの写真がゲイトフォールド・ジャケットの内側やバック・スリーヴを飾っている。
その5th アルバム『スーザン・ムーアとダミアンの為の組曲』はM-1「First Love Song」からM-10「Susan」まで、彼女と一粒だねのダミオンに捧げられた美しい楽曲で成立しているが、なかでもアコースティック・ギターの弾き語りで始まり、ハーモニカ、セレスタ、コンガ、トランペット、ピアノなどが絡んでくるM-5「Last Sweet Moment」の美しさは筆舌に尽くしがたい。
実験的なポエトリー・リーディングも含んだ多彩なアルバムで、ラストの「Susan」では彼女の声も聴くことができる。
もっとも評価の高い『バード・オン・ア・ワイヤー』はレナード・コーエン作のタイトル・ソングで始まり、名曲「ジョージア・オン・マイ・マインド」のカヴァーなどを含むアルバムで、ジョー・ザヴィヌルの参加も目を引くが、胸が詰まるような悲痛な色彩に彩られたアルバムだ。
最後のM-10「Love Hymn」でティムは歌う。
ほんの偶然のことからぼくはある女性(ひと)に会い
言葉を交わした
彼女はほんとうに美しく、ひと目で
聖女とわかるほどだった
500万回に一度というぐらいの偶然に恵まれて
彼女はぼくに恋をしたのだ
ぼくのすでに恋していた彼女が
(中略)
それからしばらくしてぼくが遠くへ行っている間に、
彼女はぼくを裏切って
新しい恋人と西へ、
ロサンゼルスへ行ってしまった
でもぼくたちがいっしょだったとき
ふたりの間にダミオンが生まれた
ふたりの愛はぼくのたったひとりのダミオンになった
(訳詞:今野雄二)
そしてゲイトフォールド・スリーヴの内側を飾るのは愛らしいダミオンの写真になった。
ただしスーザンの名誉のために付け加えておくと、彼女はティムの薬物依存の生活にがまんできず、実際にはベイビー・シッターの女性とダミオンの3人でロサンゼルスに行ったので、「裏切って 新しい恋人と」という歌詞の一節はフィクションだそうだ。
その後、失意のティムは英国に渡り、アップル・スタジオでカヴァー集『ペインテッド・ヘッド』(1972)をレコーディングしたりするが、しばらくしてアメリカに戻り、1980年の年の瀬も押し詰まった12月29日に自宅で亡くなっているのを発見された。
(追記)
うれしいことに来年の1月23日にヴァーヴ時代の4タイトルが紙ジャケでリリースされることになった。
ぼくはまだ聴いたことがないのだけれど、マイク・マイニエリやエディ・ゴメスといった腕利きのジャズ・ミュージシャンがバックを務める3rd アルバム『ライヴ・イン・コンサート』は、ティムの名曲のオンパレードらしい。
楽しみである。
こんばんは、
去年もJohnの追悼記事を書くつもりはなかったといった旨の言葉を読んだので、今年はもう書かれないのだろうなと思っていました。
自分の中では(多くの洋楽ファンの間でも)、
もうその日が何の日か分かっているので、
毎年追悼、追悼って書かなくてもいいかな、といった考えがふと頭をよぎりましたが、結局1日中そのことしか考えてないので記事にしました、結局。
記事を読ませてもらいました。
はいティム・ハーディン全く知りませんでした。
なるほどこういう人もいたのですね
勉強になりました。
by 氷春友 (2007-12-09 22:33)
氷さん、どうもです。
先ほど氷さんのブログにお邪魔しました。
とても素敵な絵ですね^^
>結局1日中そのことしか考えてないので記事にしました、結局
ファンというのはそういうものだと思いますよ。
>記事を読ませてもらいました
>勉強になりました
長い記事を読んでくださってありがとうございます。
かれのアルバムよりかれの楽曲のカヴァーのほうが聴きやすいと思います。
いつか機会があったら聴いてみてくださいませ。
by parlophone (2007-12-09 23:21)
遼さん、こんばんは。
スーパースターの死に隠れて、こんなストーリーが
あったとは、知りませんでした。
しかも年齢まで同じ...。
感慨深く拝見しました。
遼さんのところはアクセス数がすごいですね。
これはびっくりしました。
愛情たっぷりの音楽の話、いつも楽しんでいますよ♪
今日は映画「PEACE BED」観てきました。
舞台挨拶のオノヨーコさん、変わらずエネルギッシュで
パワーを貰って帰ってきました♪
by ouichi (2007-12-10 00:46)
Tim Hardinは大好きなSSWです。
最初に買ったのはライヴアルバムでした。(高校生の時です)
なんとYAMAHAのジャズのところに置いてありました・・・
ジャケットの雰囲気とバックの面子から想像するとジャズですからね。
このライヴはCD化されたのですが、廃盤になってプレミアがついて
いましたから紙ジャケで再リリースは朗報です。
Tim BuckleyとTim Hardin、この二人のTimは色々共通点があり
ますよね。(もう一人Tim Roseって人もいますが)
Hang On To A Dreamも隠れた名曲です。
by MORE (2007-12-10 08:22)
例によって紙ジャケは買ってないですが、遼さんの記事読むといつも欲しくなっちゃんですよね。(笑)好きなアーティストです。
「If I Were a Carpenter」は一聴、「職業差別かよっ?」とも取れるような内容ですが、自分に自身の持てない男なら誰でも抱く感情を素直に描いた心打つ歌詞ですよね。
彼のマッタリした繊細な語り口と詩の世界ははカナダのRon Sexsmithあたりに確実に受け継がれているような気がします。
by Mudslideslim (2007-12-10 11:12)
ouichiさん、どうもです。
>スーパースターの死に隠れて、こんなストーリーがあったとは、知りませんでした
そうなんですよ。
亡くなった当時もジョンの話題でもちきりで、ほとんど報道もされなかったようです。
>舞台挨拶のオノヨーコさん、変わらずエネルギッシュで
いいですね~。
ジョンの神格化にやっきになっているヨーコってあまり感心しませんが、芸術家としては未だに尊敬しています。
がんばってほしいですね^^
by parlophone (2007-12-10 20:45)
MOREさん、どうもです。
>最初に買ったのはライヴアルバムでした。(高校生の時です)
さすがMOREさん、押さえるところはきちんと押さえてますね。
しかも高校生とは!
渋すぎ^^
>Tim BuckleyとTim Hardin、この二人のTimは色々共通点がありますよね
ぼくはティム・バックリーのことはほとんど知りません。
ジェフ・バックリーのベスト盤がリリースされたときにあれこれ調べて、父子ともに若くして悲劇的な死を遂げた、ということを知ったぐらいですね。
いずれにしてもヴァーヴ盤、楽しみです^^
by parlophone (2007-12-10 20:50)
Mudslideslimさん、どうもです。
ご無沙汰してしまって申し訳ありません。
お体の調子はいかがですか?
Mudslideslimさんもお好きなんですね。
渋くで地味なアーティストだと思うんですが、やっぱりみなさん評価が高いみたいですね。
>カナダのRon Sexsmithあたりに確実に受け継がれているような気がします。
ああ、ぼくはロン・セクススミスも名前しか聞いたことがありません。
今度ちょっと気をつけてCD探してみますね~♪
by parlophone (2007-12-10 20:54)
Mudslideslimさん、(JTのファン?)Ron SexsmithはTim Hardinの
Reason To Believeをカヴァーしていますが、とても良いです。
確かに両者には通じるところがありますね。
遼さん、このカナダのSSWはE.コステロが絶賛するだけのことはあって
メロディーも歌詞もそんじょそこらのSSWとは一線を画するところがあります。
とっても地味ですが・・・(ルックスも)
by MORE (2007-12-11 08:29)
MOREさん、どうもです。
>Ron SexsmithはTim HardinのReason To Believeをカヴァーしています
>メロディーも歌詞もそんじょそこらのSSWとは一線を画するところがあります
へえー!そうだったんですか。
これはなんとしても聴いてみなくちゃいけませんね♪
by parlophone (2007-12-11 21:24)
Tim Hardin、
名前は知ってるけど、聴いたことのないミュージシャンの一人です。
こういう人、ホント多いんです僕^^;
紙ジャケCD化。
前にも書きましたけど、未聴の作品を聴くのにいいきっかけです(笑)
気にしときます^^
by DEBDYLAN (2007-12-12 23:08)
DEBDYLANさん、いつもnice!&comment ありがとうございます。
>名前は知ってるけど、聴いたことのないミュージシャンの一人です
ほかのミュージシャンにカヴァーされることが多かったので、シンガーというよりソング・ライターとして名前が知られていたということもあるでしょうね。
けっこう地味ですし。
でも個人的には来年のヴァーヴ・レーベル、すごく楽しみです。
by parlophone (2007-12-13 00:57)