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『ロック・クラシック入門』 [雑誌・書籍・コミック]

最近『ROCK ALBUM BEST 100』だとか『レココレ・アーカイヴズ クラシック・アルバムズ1』(いずれもミュージック・マガジン社)とか、60年代にジャズ評論の分野で活躍した相倉久人の『70年代ロック&ポップス教養講座』(音楽出版社)だとか、つまり、ロックを概観する書籍が相次いで出版されているが、ぼくが最近眺めてるのが、河出書房新社から出ている『ロック・クラシック入門』だ。

    

いつもいっているように、ぼくは70年代半ばぐらいから80年代初めぐらいまで、まったくといっていいほどロック&ポップスを聴いていなかったので、じぶんのなかで大きな欠落の意識がある。
ロックを歴史として把握するときに、その部分が「空白」として存在しているのではなく、そこが欠落しているために歴史が断絶してしまっているように感じるのだ。

この本は山梨県立大学でロックと社会の関係をテーマにした現代文化論の講義を行っている広田寛治が中心となって、別冊文藝のシリーズでロック関係の書籍を出版している河出書房の編集部とともに企画されたもので、雑誌でもおなじみの赤岩和美から渡辺亨まで26名の執筆者によって書かれている。

表紙にはロック・ファンならおもわずにやりとしてしまう、イエロー・パーロフォンやアトランティック、コロンビアやハーヴストといったレコード・レーベルをあしらった絵がついている。
代表はやっぱりイエロー・パーロフォンで、裏表紙には単独で載っているが、「KT」というタックス・コードまで書いてあるのには笑ってしまう(河出書房だからKTなんだろうか?)。

    

内容は50年代から80年代までの289のアーティストをクロニクルに取り上げ、代表的な477枚のアルバムを紹介しているのだが、この「クロニクル」というところがぼくにとっては魅力的だったので、これによってぼくのなかの「欠落した10年」をざっとすくいあげるとともに、死ぬまでに聴いておきたいロックのアルバムのめぼしをつけることができるわけだ(笑。
これはCDの整理にも役に立ちますよ。

    
    (扉絵がそれぞれレーベルを模したものになっているのだが、これはどのレーベルなんだろう)

まずPart 1「50年代ロックンロール」はロバート・ジョンソン、ライトニン・ホプキンスから始まる。
つづいてマディ・ウォーターズやB.B.キング、チャック・ベリーやリトル・リチャード…というようにブルーズからR&B、そしてロックンロールへと展開していく流れはロック史の定石どおりだ。
1ページが4段組で、マディやB.B.は2段(つまり1/2ページ)、ファッツ・ドミノ、ボ・ディドリー、チャック・ベリー、リトル・リチャードはそれぞれ1ページが割り当てられている。
エルヴィスは1.5ページだ。

    
    (これはUS コロンビアですね^^)

Part 2「60年代前半」はレイ・チャールズ、サム・クックから始まる(ともに1ページ)。
そしてビーチ・ボーイズとビートルズが登場するのだが、それぞれ2ページが当てられている。
紹介されているアルバムの中でもとくに重要なものは「Greatest」というレコードのマークがついているのだが、たとえばビーチ・ボーイズでは『サーフィン・サファリ』、『サーファー・ガール』、『オール・サマー・ロング』、『サマー・デイズ』が紹介され、『オール・サマー・ロング』と『サマー・デイズ』に「Greatest」のマークがついている。

   

そのほか、ブリティッシュ勢ではストーンズが1.5ページ、ザ・フーが1ページ、キンクスとヤードバーズはそれぞれ3/4ページ、アメリカ勢ではディランが2ページ、サイモン&ガーファンクルが1ページ、ザ・バーズが3/4ページとなっている。

Part 3「60年代後半」はオーティス・レディングとアレサ・フランクリンで幕開け(それぞれ1ページ)。
ビートルズが3ページと3/4という異例の扱いであるほかは、2ページを占めるのは、ストーンズ、、ドアーズ、ジミ・ヘン、ジャニスの4組だけ。
バイク事故で空白のあるディランは1.5ページ、あとはザ・バンド、クリーデンス、CSN(&Y)が1.5ページだ。
ビーチ・ボーイズは『ペット・サウンズ』で1ページ、ザ・フーは3/4ページしかない。

おもしろいのは広田寛治と編集部、それに執筆者とのあいだで推薦するアルバムについて協議したあと取捨選択が行われていることで、たとえばドアーズでは、『まぼろしの世界』がなんと選から外され、「Greatest」は『ハートに火をつけて』と『モリソン・ホテル』につけられている。

Part 4「70年代前半」になるとスティーヴィー・ワンダーから始まって、ジョン・レノン、ニール・ヤング、ジョージ・ハリスンと2ページがつづく。
でもポールは1ページだし、ポール・サイモン、ディラン、キャロル・キング、ジェイムズ・テイラーといったSSW組も1ページ。
ジョニ・ミッチェルが1.5ページというのは当然としても、ローラ・ニーロが0.5ぺーじなのは淋しいかぎりだ。
気になるゼップvsパープルは(←ぼくだけ?笑)いずれも1.5ページで引き分け、プログレではクリムゾンとフロイドがそれぞれ2ページで、ELPが1.5ページ、イエスとジェネシスは1ページだ。
意外とページを割かれてるのがクラプトンで、60年代後半と合わせると計4.5ページが当てられている。
ブルース・スプリングスティーンとビリー・ジョエルは2ページだが、エルトン・ジョンが1ページというのはぼくには不思議。
イーグルスの2ページもちょっと意外だった。

Part の最初には「概論」と「基本用語」、それに流れを簡単に示した図式がついているのだが、これのPart 5「70年代後半」を見るとこうなっている。

    

なるほどね~。
それにしても見事に聴いてないなあ。
ボブ・マーリーもスライ&ファミリー・ストーンも、ストーンズも ZEP もウィングスもクイーンもキッスも、スティーリー・ダンもマックもシックも、パンクもなんにもリアル・タイムでは聴いてない。
ゆいいつこのなかで聴いてるのはビー・ジーズだ(笑。
『サタデー・ナイト・フィーヴァー』見に行ったもんね♪。

その「70年代後半」はスライ&ファミリー・ストーンで始まるが、これとアース・ウィンド&ファイヤーは1.5ページ、ボブ・マーリーが2ページ。
ブリティッシュ・ロックではストーンズ、ゼップ、ポール・マッカートニー&ウイングス、クイーンがそれぞれ2ページ。
ザ・フーとボウイは1ページだ。
ELOとスティーリー・ダン、フリートウッド・マックにはそれぞれ1ページ1/4が割り当てられている。
パンク勢ではパティ・スミスが2ページ、一昨日取り上げたラモーンズと、ピストルズが1ページ、クラッシュは1.5ページだ。
あとはトーキング・ヘッズに1.5ページが当てられているほか、カーズ、ジャム、コステロ、ポリスがそれぞれ1ページを占めている。

Part 6 は「80年代以降」という項目だが、このへんがクラシックといえるかどうか。
マイケル・ジャクスン、プリンス、マドンナにそれぞれ1ページ当てられているほか、U2には1.5ページが割かれている。

    
    (26名の豪華執筆陣だ)

これで全272ページ、1,600円は安い!^^


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コメント 12

deacon_blue

☆ 記事読みました。ご紹介どうもありがとうございます。
by deacon_blue (2007-10-14 23:19) 

ouichi

遼さん、こんばんは。
いやーこれだけの歴史を272ページでまとめあげるのは
至難の業でしたでしょうね。
いくら頑張ったところでアーティストの取り上げ方には異論
が出そう。
これはおもしろそうですね。
僕も苦手なジャンル、聴き忘れている名盤など
見つけ出すいい機会になりそう。
by ouichi (2007-10-15 00:03) 

parlophone

deacon_blueさん、どうもです。
お役に立てたのなら幸いです^^
by parlophone (2007-10-15 00:40) 

parlophone

ouichiさん、どうもです。

>いやーこれだけの歴史を272ページでまとめあげるのは至難の業でしたでしょうね

ですよね。
監修の広田さんと編集部と執筆者とのあいだで侃々諤々の議論があったのかもしれませんが、レココレの『ベスト100』のように偏ったところもなく、ひじょうにオーソドックスで、しかも勉強になる本でした。

>苦手なジャンル、聴き忘れている名盤など

そうですよね。
受験じゃないけど、弱点克服! なんつったりして…^^
by parlophone (2007-10-15 00:43) 

MORE

かれこれ10年くらい、世界中でこの手の本が出版されていますから
日本版が出てもおかしくないでしょう。
(ということは手引書・参考書は豊富なわけだし・・・)
まだ本屋で見ていないので何とも言えませんが、どんな読者層を想定
してるのかなあ?
個人的にはいまさら他人に「これを聴きなさいよ!」なあんて言われても、
「どーせレコード会社の提灯記事だろーがー」くらいにしか思いませんから・・・
もっと密林に潜入するような「サイケデリック・ロック」とか「プログレ」とか
「ブリティッシュ・フォーク」みたいに見たこともないようなアーティストや
アルバムの紹介なんかがされている文献なら興味は出ますけど・・・

ドアーズのStrange DaysがGreatestじゃなかったり、BB5のSummer DaysがToday!を押しのけてGreatestとなるとちょっと???ですね。
ま、Billy JoelやEaglesにページを費やしているというところで対象に
している読者層の顔が見えてきますが・・・ 
by MORE (2007-10-15 08:32) 

MASA

比較的オーソドックスな内容で入門書としてはかなりいい内容っぽいですね。買ってみようかな。
パーロフォンもどきのレーベルに"KT"までありってのはホント笑えますね^^。

ビーチ・ボーイズの"GREATEST"が付けられている3枚はほぼ納得ですが、個人的には「SURFER GIRL」の代わりに「SHUT DOWN VOL.2」、ついでに「TODAY!」も入ってれば申し分なかったですね^^。
by MASA (2007-10-15 13:03) 

parlophone

>個人的にはいまさら他人に「これを聴きなさいよ!」なあんて言われても

いやいやいや、これはあくまでも「入門書」ですから。
しかも「ロック・クラシック」の…。
MOREさんのような百戦錬磨の達人にはまったくお呼びでない書物です(笑。

>どんな読者層を想定してるのかなあ?

自分でUPした写真を見返していたら、例の「裏表紙のレーベル」のなかに
「TO THE BEGINNERS AND THE PERSONS WHO RETURN TO ROCK WORLD AGAIN」と書いてありました。
ぼくのばあい10年間いなかったわけですから、まさにこれに当てはまるわけです^^
もともとは大学の講義のなかで学生の質問に答えてるうちに
「個々の作品を云々するより、やはりロックの歴史のなかでダイナミックにとらえる必要がある」と感じたところから企画が始まったようです。

>ドアーズのStrange DaysがGreatestじゃなかったり

いえいえ、Greatestどころか、もともと載ってません(笑。
まあ、でもそこにこの本のおもしろいところもあるので、入門書の中にも1冊ぐらい、コルトレーンの『至上の愛』を推薦してないやつがあってもおもしろいと思いますよ^^
by parlophone (2007-10-15 20:36) 

parlophone

>買ってみようかな

いや~、MASAさんにもまったく必要ないでしょう。
入門書ですよ^^
ぼくはすごく偏ってるので、こういうのがあると役に立つんですよね~。
「へえ、この時代にこんなのが出てたんだ、全然聴いたことないや~」
なあんて感じで。

>パーロフォンもどきのレーベルに"KT"までありってのはホント笑えますね^^
そうなんですよ。
なんかヴィニールに対する愛を感じます^^

>「SHUT DOWN VOL.2」、ついでに「TODAY!」も入ってれば

「TODAY!」が入ってないのはぼくも意外でしたが、「SHUT DOWN VOL.2」はMASAさんの推薦盤でしたよね~。
あとがきのなかで、「執筆者とうちあわせているうちに一部取り上げるアルバムを修正した」みたいなことが書いてありましたので、それなりのポリシーがあるんでしょうね…。
by parlophone (2007-10-15 20:45) 

MORE

>「TODAY!」が入ってないのはぼくも意外でしたが、「SHUT DOWN
>VOL.2」はMASAさんの推薦盤でしたよね~。

私もShut Down Vol.2は推薦盤です。
当時、このアルバムだけは日本盤じゃなくってUS盤をわざわざオーダー
して買い、東芝盤との音圧の差にぶったまげました。
Fun, Fun, Funのイントロから音の粒立ちがまるで別物だったのです。

あ、ところでVUとかソフツなんぞはどんな取り上げ方をされているんですか?それからザッパ・・・
by MORE (2007-10-15 22:15) 

てらだ

私もそろそろ新しいガイド・ブックが欲しいと思っていたので本屋でちょっと見てきます。
CDショップへ行っても青春時代を過ごした80年頃までの当時欲しくても買えなかった作品ばかりに目がいってしまって、なかなか新しい未聴の分野へ足を踏み入れることが出来ないのでいますが、こういったガイド・ブックは本当に参考になります。
初心者向けというのがちょっと・・・ですが。

ビーチ・ボーイズはこの時代が一番好きですが、残念ながら「ペット・サウンズ」の魅力は今でもよく理解できないでいます。

>これはどのレーベルなんだろう
これはサン・レーベルです。
サンを代表するアーティストの一人が右ページに載っているエルビスでした。

若干のアレンジがされていますが、こんな感じです。→http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%AC%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%89-50TH%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%B3/dp/B00007B90O
by てらだ (2007-10-15 22:27) 

parlophone

>US盤をわざわざオーダーして買い、東芝盤との音圧の差にぶったまげました

やはり当時の国内盤というと、ノイズは少ないけどそのぶん音もおとなしくなっちゃう…という感じですよね。

>VUとかソフツなんぞはどんな取り上げ方をされているんですか?それからザッパ…

ちょっと待ってくださいね(笑。

え~っと、ヴェルヴェットとザッパは60年代後半に並んで取り上げられてますね。
筆者は増渕英紀さん。
それぞれ1ページです。
2段でバンドの解説、下2段がアルバム解説で、それぞれ『ニコ』と『フリーク・アウト!』だけですね。

ソフツは載ってません!
これにはぼくもちょっと驚いた^^
ロバート・ワイアットやケヴィン・エアーズもありませんねえ。
by parlophone (2007-10-16 00:03) 

parlophone

てらださん、どうもです。

>なかなか新しい未聴の分野へ足を踏み入れることが出来ないのでいます

ぼくもジャズではそうですよ。
新しい作品が次々に出ますが、やっぱり興味があるのは50年代から60年代前半のジャズ。
どうしてもそういう作品ばかり買ってしまいます。
もっとも新しいやつを買っても聴かなきゃいっしょなんですけどね^^;

>「ペット・サウンズ」の魅力

いやあ、残念ですね~。
ぼくも最近ですが、5年聴いてても飽きないですね。
聴くたびにいい!

>>これはどのレーベルなんだろう
>これはサン・レーベルです

なるほど~。
いや~、疑問氷解、すっきりです^^
ありがとうございました。
by parlophone (2007-10-16 00:23) 

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