『真夏の夜のジャズ』 [JAZZの愛聴盤]
今回はちょっと趣向を変えて。
こういう寝苦しい夏の夜には、映画史上初の本格的ジャズ・ムーヴィーといわれる『真夏の夜のジャズ』を見ながらしばしの涼を味わおう(笑)。
『真夏の夜のジャズ』はモダン・ジャズがもっともモダン・ジャズらしかった時代、1958年7月のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルを捉えた記録映画である。
大学に入ったばかりの1973年だったと思うが、この映画がリヴァイヴァル上映されるというので、福岡のずいぶん遠い映画館(市民会館のような場所だったような気もする)まで出かけたことを思い出す。
そのときのお目当てはセロニアス・モンク(p)やジェリー・マリガン(bs)、そしてなんといっても、初めて目にする「動くエリック・ドルフィー」だった!!
では、出演者の顔ぶれを画像とともに紹介していこう。
(今回は画像15枚です。いつも重くてすみません)
なお、メイン・サイトの「JAZZの愛聴盤」のコーナーには、画像を10枚ほど追加したGUヴァージョンもあります。
こちらをクリック。
映画はジミー・ジュフリー3の「Train and the River」で始まる。
ジミー・ジュフリーのテナー・サックスにボブ・ブルックマイヤーのバルブ・トロンボーン、そしてギターのジム・ホールというトリオ。
緊密なコラボレイションのなかで、静かだがスリリングな演奏が繰り広げられる。
映像は同じ場所で繰り広げられていたアメリカズ・カップのようすなどを交えながら、つぎつぎにモダン・ジャズの歴史を作っていった巨人たちの姿をとらえていく。
野口久光さんの解説によれば、実際には4日にわたって行われたフェスティヴァルのようすが1日のステージのように編集され、タイトルも『JAZZ ON A SUMMER'S DAY』と題された。
日本では1960年に劇場公開され、当時のジャズ・ファンの間で大きな評判になったらしい。
会場を車に乗って走り回るディキシーのバンドなどの映像をはさんで、セロニアス・モンク・トリオが登場、「Blue Monk」を演奏する。
つづくソニー・スティットのクインテットの演奏は「Blues」。
盲目のギタリスト、サル・サルヴァドールのソロもなかなかいい。
そして最初のクライマックスはアニタ・オデイ(vo)だ。
白い羽飾りのついた黒の帽子に黒のドレス、そして白の手袋という清楚な姿で現れたアニタは「Sweet Georgia Brown」と「二人でお茶を」の2曲を歌う。
スキャットで伴奏陣とアドリブの応酬をするアニタの圧倒的な歌唱は、そのへんのジャズ・ヴォーカリスト(を名乗っている女性歌手)が単なるモノマネに過ぎないことを如実に見せつけてくれる。
聴衆もスタンディング・オベイションだ。
(アニタの熱唱に聴き入る女性)
監督は写真家として著名なバート・スターン。
そのスタイリッシュな映像には、かれのジャズに対する愛情が溢れている。
演奏シーンの合間に挟まれる映像もそのまま絵葉書になりそうな美しさだ。
あたりが夜の帳に包まれると、ジョージ・シアリング(p)のクインテットが登場する。
コンガのアーマンド・ペレーサの姿が見られるのもうれしい。
ダイナ・ワシントンはマックス・ローチとの共演で「All of Me」を熱唱。
ヴァイブのテリー・ギブスといっしょになって見事なマレットさばきも見せてくれる。
ジェリー・マリガン・カルテットはトランペットがアート・ファーマー、ベースは『さよならバードランド』の著作でも有名なビル・クロウだ。
ビッグ・メイビル・スミス(vo)につづいて、なぜかチャック・ベリーが登場、「スウィート・リトル・シクスティーン」を演奏してやんやの喝采を浴びる。
そしてついにエリック・ドルフィーが静かにフルートを吹く、チコ・ハミルトン・クインテットがスクリーンに登場する。
チコのドラムもかっこいいが、後年の激情を叩きつけるようなアルトやバスクラと違う静謐なドルフィーもかっこいい(笑)。
そのあと映画は、トランペットの巨人ルイ・アームストロング(ジャック・ティーガーデン(tb)やピーナッツ・ハコー(cl)の姿も見ることができる)の演奏と、ゴスペルの女王マヘリア・ジャクスンの熱唱で幕を閉じる。
もうひとつこの映画の中でぼくが好きなシーンは、チコ・ハミルトン・クインテットの練習の合間にネイサン・ガーシュマン(cello)が、バッハの無伴奏チェロ組曲第1番の主題を弾き始めるところ。
文句なしにかっこいい。
ぼくはレーザー・ディスクしか持っていないが、DVDもリリースされているので、未見の方はぜひどうぞ。
繰り返しになるが、モダン・ジャズがもっともモダン・ジャズらしかった時代のすばらしい映像を演奏をたっぷりと楽しむことができる。
アニタは最近の”歌姫”にはない魅力であふれていますね。
本家サイトさんのほうにこちらからリンクを貼っても構いませんでしょうか?
by (2006-08-06 08:30)
ああ・・・「真夏の夜のジャズ」ですかあ! 遼さんとはやはり世代が近いようですね。僕も、この映画が<日比谷野音>で上映されるというイヴェントを知っ・・・モンク見たさに、わざわざ東京まで見に行きましたよ(笑)1975年のことです。僕は、せっかくのモンクの演奏場面が、半分くらいヨットの絵になってしまうのにがっかりしたりしました(笑)それと鮮烈に覚えているのは・・・ドルフィが画面に登場した瞬間、観客から「うオ~ッ」というような唸り声と共に「拍手」が湧き上がってきたことです。
このイヴェント絡み・・・おもしろかったので、また拙ブログ<夢レコ>で記事にしようと思います。
by bassclef (2006-08-06 09:43)
カオルさん、nice! &コメントありがとうございました。
カオルさんのブログもおもしろいですねえ!
あとでゆっくり拝見させていただきます。
リンクはもちろんかまいません。
よろしくお願いいたします。
by parlophone (2006-08-06 13:01)
bassclefさん、いつもどうもです^^
>モンク見たさに、わざわざ東京まで見に行きましたよ(笑)1975年のことです
ああ、75年でしたか。
なんかうろ覚えで書いてしまいましたが、全国上映キャンペーン?の一環だったような気がしますので、ぼくも75年でしょうね。
>せっかくのモンクの演奏場面が、半分くらいヨットの絵になってしまう>のにがっかりしたりしました(笑)
そうそう、前半はけっこうアメリカズ・カップの映像が多くて、ナレーションも演奏にかぶったりして、がっかりしますよね(笑。
>ドルフィが画面に登場した瞬間、観客から「うオ~ッ」というような唸り声と共に
>「拍手」が湧き上がってきたことです
おお、そうでしたか!
当時は動くドルフィーって、この映画しか知られていなかったでしょうからね~。
bassclefさんの記事、とても楽しみにしています^^
by parlophone (2006-08-06 13:10)
遼さんどうもです。東京も暑いです。真夏の夜のジャズ、私も25年ほど前に何かとの三本立てで見て以来だったのですが、去年DVDを購入して感動を新たにしました。しかしこの映画の全体に漂う清涼感、まさにクールな温度感はいいですねー。輝かしいジャズ陣については遼さんがコメントで網羅されているのでその他の色物(失礼:笑)でぐっとくる2人についてちょっと。一人はビッグ・メイベル・スミス。ともかくこの笑顔の可愛いおばさんのド迫力ボーカル。ここ数年「ブルース・ソウルの耳」になっている私はこの人一人を見るためにこのDVDを見たりします。もうひとりはやはりチャック・ベリー。例によって彼にはバックバンドがいませんから「ニューポート・ブルース・バンド」をバックに演奏するわけですが、ドラムがパパ・ジョー・ジョーンズ、ソロで絡むクラは当時サッチモの相棒だったピーナッツ・ハッコー、最強にして最高に「なんか違う」メンバー(笑)。どう見ても一番若いのは主役のチャックさん。でもこれがまた独特のノリでおもしろい。もうこの映画、その後の音楽系ドキュメンタリーに確実に影響を与えてますね。実は「ウッドストック」なんかも同じような手法でとられている気がします。
by nowatts (2006-08-07 15:36)
>ソロで絡むクラは当時サッチモの相棒だったピーナッツ・ハッコー
などとうる覚えで書いておりますがよく見たら絡んでいるのは別人ですね。失礼しました。
ジャック・ティーガーデンらしきは舞台におりますが笑っているだけですね(笑)。別の曲でで絡んだりしたんでしょうか。ジョニー・ビー・グッドで掛け合いとかやってたら大うけですが。
by nowatts (2006-08-07 18:24)
遼さん、またおじゃまします。遼さんの「真夏の夜のジャズ」を読んで、それからアニタやモンクの、全く一番いい場面の写真にも大いにインスパイヤーされて・・・いろいろ思い出しているうち、この映画のチラシを取っておいたことも思い出し、それで拙ブログ<夢見るレコード>で記事にしました。こちらの記事へのリンクもさせていただきました。また「チラシの写真」でもご覧ください(笑)
by bassclef (2006-08-07 22:57)
nowattsさん、どうもです。
>一人はビッグ・メイベル・スミス。
>ともかくこの笑顔の可愛いおばさんのド迫力ボーカル…
>私はこの人一人を見るためにこのDVDを見たりします
な~るほど~!
そうだったんですか!
ぼくはこの人について何も知らないので、ブログの中でも敢えて触れずにスルーしてしまったんですが、たしかに異様に歌のうまい、すごい女性ですよね。
>もうひとりはやはりチャック・ベリー…
>ドラムがパパ・ジョー・ジョーンズ
うんうん、ジョー・ジョーンズとの意表をつく組み合わせ(笑。
おもしろいですね^^
>実は「ウッドストック」なんかも同じような手法でとられている気がします
言われてみると、おっしゃるとおりですね。
すべての音楽ドキュメンタリー映画は『真夏の夜のジャズ』から影響を受けてるといって過言ではないと思います。
とにかく最初から最後までスタイリッシュで美しい映像の連続、それでいてジャズに対する愛情に溢れている…。
何度見ても飽きない映画ですよね~~。
by parlophone (2006-08-07 23:32)
bassclefさん、「夢レコ」拝見いたしました。
いつもながら、きちんと保存された資料と驚くほど鮮明な記憶による詳細な記事で、感服しました(←言い方が古めかしくてごめんなさい 笑)。
ぼくも76年だったか東京の伯母のうちに遊びに行って、道玄坂の「ジニアス」や新宿の「DIG」には足を運びましたね。
それから『スイング・ジャーナル』の広告を見て行ったのは、なぜか「ディスク・ユニオン」ではなく「ディスクロード」というレコード・ショップ。
ここで『デイヴィス・カップ』をはじめとするブルー・ノートの輸入盤を何枚も買いました^^
ところで、bassclefさんのブログにはRSSのアドレスはありませんか?
これがわかると、更新されたとき自動的に「読んでるブログ」の欄に「NEW」と表示されるのですが…。
by parlophone (2006-08-07 23:45)
遼さん、こんばんわ。拙ブログ<夢レコ>の方へもコメントを頂き、ありがとうございました。
ディスク・ロード~僕も行きましたよ!新宿の西口からけっこう歩いて、たしか店の手前に小さい公園があったような・・・。駅からちょっと遠い店の方が、確実に少し安いんですよね(笑) 西新宿というと今は、ロックらしいですね。
RSSリーダー~イマイチ仕組みがわかってないのですが(笑)拙ブログの方・・・<RSSを表示する>という設定にしてみました。ブログの右側の欄外です。またみてみて下さい。
by bassclef (2006-08-08 23:01)
bassclefさん、どうもです!
そうですか、bassclefさんも行かれたことがあるんですね(笑。
いや~、確かに安かったです。
ところでさっそくRSSの設定をしました。
これで「読んでるブログ」に登録されました。
ありがとうございました!^^
by parlophone (2006-08-08 23:33)
はじめまして。
質問なのですが、チコハミルトンでギターを弾いてるのは誰でしょうか?
by マルボロ (2006-09-29 23:57)
マルボロさん、こんにちは。
初めまして、管理人の遼と申します。
よろしくお願いします。
チコ・ハミルトン・クインテットでギターを弾いているのはジョン・パイザノ(John Pisano ジョン・ピサノとも)という人です。
チコのクインテットはもちろん、ペギー・リー(たとえば『IN THE NAME OF LOVE 』)やハーブ・アルパート&ティファナ・ブラス(たとえば『WHAT NOW MY LOVE』)のアルバム、、ジョー・パスとのギター・デュオなどで有名で、最近ではダイアナ・クラールとの共演などで活躍しています。
by parlophone (2006-09-30 13:58)
早速のお返事ありがとうございます。
John Pisanoでしたか。Gabor Szaboじゃないかと思っていたのですが。
どちらにしてもかっこいいですね。
額に汗かくチコを尻目に涼しい顔で演奏するその対比もおもしろい。
実は映画をちゃんと見た訳ではないのです。
pisanoも未聴なのでどちらも近い内買ってみます。
by マルボロ (2006-09-30 19:40)
>Gabor Szaboじゃないかと思っていたのですが
ああ、残念ですね~。
ぼくも動くGabor Szabo見てみたいです。
ジョー・パスとのツイン・ギターで有名になった『フォー・ジャンゴ』あたりがお奨めです。
機会がありましたらどうぞ。
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1313817
by parlophone (2006-09-30 21:49)