SSブログ

『オーヴァーシーズ』 [JAZZの愛聴盤]

いつもは入門書などに載らないちょっとマイナーな愛聴盤を紹介しているこのコーナー、今回は大名盤トミー・フラナガンの『オーヴァーシーズ』だ。

なんといっても『スィング・ジャーナル』誌選定ゴールド・ディスク第1回受賞作品なわけで、同誌のジャズ・ジャーナリズムにおける影響力が今とは比較にならないほど大きかった70年代、ゴールド・ディスクといえばそれだけで名盤だった。
しかしそういう注釈がなくても、やはりこれはすばらしいアルバムである。

  

『オーヴァーシーズ』はその名のとおりストックホルムで録音されていて、メンバーはピアノのトミ・フラ、ベースがウィルバー・リトル、ドラムスがエルヴィン・ジョーンズという顔ぶれ。
この3人は1957年当時のJ.J.ジョンソン・クァルテットのリズム隊で、楽旅でスウェーデンを訪れたときにボス抜きで録音されたものだ。

トミー・フラナガンという人はジャズ史に名を残すような巨人ではないし、そのプレイもけっして派手ではない、いぶし銀のようなピアニストなのだが、ソニー・ロリンズの『サキソフォン・コロッサス』、ジョン・コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』というテナーの2大巨人の2大名盤でピアノを弾いている。
しかもこの人の果たした役割はけっして小さくはないから、もしこの2枚のアルバムのピアニストがトミ・フラでなかったら、現在のような評価を得ていたかどうかは疑わしい、そんな名ピアニストなのだ。
そしてもうひとり、60年代のコルトレーン・カルテットでリズムのかなめの役割を果たしたエルヴィンの参加も興味を惹かれるところだ。

さて、このアルバムでまず感心するのは選曲と配曲のバランスのよさだ。
まずバードの軽快なブルーズ「リラクシン・アット・ザ・カマリロ」でこのアルバムは幕を開ける。
意外な力強さでしなやかにスイングするトミ・フラのピアノに軽い驚きを覚える暇もなく、曲はビリー・ストレイホーンの美しいバラード「チェルシー・ブリッジ」へと移る。
そのまま美しい曲になりそうなアドリブに耳を奪われているうちに、倍テンポになって聞き手をグッとつかんだかと思うとすぐに後テーマが流れあっという間に曲が終わってしまう。
つづく3曲目は後にアルバム・タイトルにもなったトミ・フラのオリジナル「エクリプソ」。
ラテン・リズムをあしらった印象的なテーマを持つ曲で、軽快なピアノとともに、ブラシを使って煽るエルヴィンも聞き逃せない。

こんな調子で5曲が収められたA面が終わると、B面の1曲目はあきらかにこのアルバムのハイライトである「リトル・ロック」だ。
このタイトルはミンガスの「フォーバス知事の寓話」で有名なアーカンソー州のリトルロックとは何の関係もない。
ライナーノウツを読むとベーシスト、ウィルバー・リトルのオリジナルで、「リトルのスイング」といった意味らしい。
そのリトルのベース・ソロから始まるこの曲は7分という長さをまったく感じさせない名演で、一分の隙もなくスイングするピアノとそれを鼓舞し続けるエルヴィンのブラッシュ・ワーク、そして野太いリトルのベースがじつに巧みな調和を保っている。

アルバムはもともとスウェーデンのメトロノームというレーベルに吹き込まれたが、のちにプレスティッジが音源を買い取って広く聴かれるようになった。
初めわが国で紹介されたときは、権利の関係だろう、トミーの横顔を使った独自のジャケットだったが、80年代に入ってプレスティッジのオリジナル・ジャケットが復刻された。
"Overseas"を"Over Cs"とシャレたアート・ワークで、とてもすっきりしたデザインだ。
ぼくが持っているのもテイチクからリリースされた国内盤で、オリジナルでは"PRESTIGE 7134"となっている部分が"METRONOME"と表記されている。

この大名盤がわが国では長い間廃盤の憂き目にあっていて、OJCのCDでしか手に入らない。
ぼくの持っているアナログは音がいいとはいえないので、ぜひ最新のリマスター、紙ジャケでリリースしてほしいものだ。

TOMMY FLANAGAN "OVERSEAS"
PRESTIGE 7134



本編のサイトMUSIC & MOVIESの「JAZZの愛聴盤」のコーナーはこちらから。


nice!(0)  コメント(20)  トラックバック(2) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 20

幻燈遮断機

遼さん、こんにちは。
トミー・フラナガンは一枚も聴いたことなかった!(ガーン)
このアルバムはピアノ・トリオみたいですね。
聴いてみたい!
僕も紙ジャケ化に一票!
by 幻燈遮断機 (2006-01-06 15:40) 

parlophone

幻燈さん、どうもです。
トミフラはリーダー・アルバムの少ない人ですよね。
とくに50年代はプレスティッジに何枚かあるだけだと思います。
このアルバムはそんな彼の代表作です。
ぜひ一度聴いてみてください^^
by parlophone (2006-01-06 21:17) 

夜明けのティーンエイジャー

うひゃあ!トミフラの『オーバーシーズ』だぁ!!

このアルバム、ウィルバー・リトル、エルヴィン・ジョーンズとの火花散るような過激なリズムに乗って、トミフラも別人のように暴れまくります。ファスト、ミディアム、スローとすべてがキラー・チューンという、まるで神が3人の上に降臨したかのような奇跡的なアルバムですね。ピアノ・トリオの名盤では、間違いなく五指に入ると思いますねぇ。
by 夜明けのティーンエイジャー (2006-01-06 21:49) 

bassclef

遼さん、<夢レコ>へもコメントどうもthanksです。
幻燈さん、夜明けさん、こんばんわ。ああ・・・オーバーシーズ、これはホントにいいジャズですよね。内容は、もう遼さん記事と夜明けさんコメントで・・・あとは何も残ってません(笑) とにかく・・・エルヴィンは・・・ブラッシュも巧い。巧いだけじゃなく凄い!ワクワクしますね。ちなみに僕の手持ち盤も、テイチク発売の同じやつです。遼さん、今年もよろしくお願いします。ぅぅぅうううう、ジャズ!
by bassclef (2006-01-06 22:06) 

parlophone

夜明けさん、どうもです。

>このアルバム、ウィルバー・リトル…
>…間違いなく五指に入ると思いますねぇ。

参りました^^
ぼくがグダグダ書いてきたことを夜明けさんは4行で、しかももっと的確に評されてますね。
う~ん、自信喪失(笑。
by parlophone (2006-01-07 00:56) 

parlophone

bassclefさん、どうもです。

>とにかく・・・エルヴィンは・・・ブラッシュも巧い。巧いだけじゃなく凄い!

記事の中に書こうと思ってて忘れちゃったんですが(笑)、57年の時点でブレイキーともローチとも、もちろんシェリー・マンやチコともまったく異なった革新的なプレイをしてますよね!
ぼくはこのころのJJって『ダイアルJ.J.5』しか聴いたことありませんが、ライヴなんかではどんな演奏を繰り広げてたのか、ちょっと興味ありますね~。
by parlophone (2006-01-07 01:02) 

Shaolin

Overseas のオリジナルは Sweden の Metronome レーベルから出た
EP 3枚セットでしたね (確か)。当然高嶺の花で手が出る価格では
ありませんが。
US では Prestige から出て、その時点で RVG マスタリングとなり、
随分音の傾向が変わっていると聞いたことがあります。

いま中古で探すとすれば、以前 DIW (だったかな?) が復刻した、
オリジナル EP のジャケットを使った LP (未発表テイクも入ってた様に
記憶してます) でしょうかね。
音質比較はしたことがないので分かりませんが...
by Shaolin (2006-01-07 16:43) 

parlophone

おお、Shaolinさん、ご無沙汰しております。
本年もよろしくお願いいたします。

>オリジナルは Sweden の Metronome レーベルから出たEP 3枚セットでしたね

へえ~、そうだったんですかぁ。
まったく知りませんでした。

>US では Prestige から出て、その時点で RVG マスタリングとなり、
>随分音の傾向が変わっていると聞いたことがあります。

なるほど~。
わが国では(USでも?)RVGというと神様みたいに扱われてますが、どんなふうに音が変わったんでしょうね。
興味津々です^^
それにしてもDIWから出たLPってのも知りませんねえ…。
残念!
by parlophone (2006-01-07 22:22) 

Shaolin

そういえばこの録音は Flanagan の初リーダー録音でもありますね。
アメリカのミュージシャン達がオールスターズとしてスウェーデン巡業した
際に、この 3人がピックアップされてレコーディングされた、と。
当時は Flanagan の名前がそんなに売れていたとも思えず、
Metronome のプロデューサーの先見の明には感服させられますね。


> DIWから出たLP

記憶が確かなら、同じく Sweden の Dragon レーベルから出たものの
日本リリースだったかと。Dragon レーベルといえば、主に Sweden での
未発表ライブを丹念にリイシューしていました。このうちの一部が
DIW 経由で日本リリースされたんだったと思います。

例えば Miles & Coltrane Live in Stockholm 1960 とか、
Rollins Trio in Stockholm 1959 あたりは超有名盤ですね。

なので Complete Overseas Sessions も Dragon が
(DIW リリースの) オリジナルかも知れません。
by Shaolin (2006-01-08 00:39) 

Shaolin

あぁなんか寝ぼけて書いてしまいました。

> 記憶が確かなら、同じく Sweden の Dragon レーベルから出たものの
> 日本リリースだったかと。



> なので Complete Overseas Sessions も Dragon が
> (DIW リリースの) オリジナルかも知れません。

は完全に内容がダブってます。すみません。
by Shaolin (2006-01-08 00:40) 

parlophone

Shaolinさん、全然OKです(笑。
それよりもご丁寧なレス、ありがとうございます。
Dragonレーベルですね。
覚えておきます^^

ところでShaolinさんのブログにコメントしようとしたんですが、なぜかうまく認証されませんでした。
あすもう一度TRYしてみますが、それにしてもすご過ぎで悶絶しました(笑。
by parlophone (2006-01-08 01:37) 

夜明けのティーンエイジャー

遼さん、コメントへのお褒めの言葉ありがとうございます(笑)。

実は拙が現在所有しているのが、Shaolinさんが解説されていたmade in SwedenのDRAGON盤です。1985年にリリースされました。

ジャケオモテ画像
http://image.blog.livedoor.jp/mickbanzai/imgs/7/a/7ab3f783.jpg?blog_id=292982
ジャケウラ画像
http://image.blog.livedoor.jp/mickbanzai/imgs/9/9/99e6f29a.jpg?blog_id=292982

残念ながら、オリジナルEPもPRESTIGE盤も聴いたことがないので音質比較はできませんが、拙も所有していた国内テイチク盤と比較すると音はクリアでシャープです。なお、収録されたボーナストラックは、「Dalarna」「Verdandi」「Willow Weep For Me」の別テイクです。
by 夜明けのティーンエイジャー (2006-01-08 02:16) 

parlophone

夜明けさん、どうもです。
わざわざ画像UPいただきありがとうございました。
とても助かります!(笑。
このジャケットなんとなく見たことあるような気もしますが、オリジナルのDRAGON盤だったのかDIWからの再発盤だったのかはわかりません。
とりあえず今年のGETすべきレコード第1弾にします^^
by parlophone (2006-01-08 13:46) 

夜明けのティーンエイジャー

DIWからリリースされたものはジャケが異なりますね。このジャケは、Shaolinさんご指摘の通り、オリジナル盤EP3枚のうちひとつのジャケデザインを流用したものです。その画像をネットで拾いましたので、ご参照ください。

http://image.blog.livedoor.jp/mickbanzai/imgs/8/8/8828b17c.jpg?blog_id=292982

ところで、メガレアのオリジナルEPを一時は真剣に欲しいと思ったことがありましたが、10年前で3枚セットの価格が10万下らなかったような記憶があります。ネットオークション全盛の今だと、店頭に並ぶことはもはやないかもしれませんね。

ちなみに、CDでの入手は現在輸入盤OJCの『OVERSEAS』がボートラ3曲入りで入手可能なのですが、どうやらそのボートラが別テイクではなくてマスターテイクと同一テイクとの情報です。
by 夜明けのティーンエイジャー (2006-01-08 15:17) 

tamachi

遼さん、みなさん どうもです。拝見いたしました。
ちょっとレベルが低くスレ違いの話で恐縮ですが、
ジャズのレコードはサキコロなどタイトルと中身がイメージできる
少数のものを除いてまったくわからずにLP30枚ほど、EP1枚を所有していますが、遼さんのものを見ているときちんと聴いてみたくなりました。
原盤とまではいかないまでもそろえていきますかね^^

あとメトロノーム・レコードでジャズを出していたのですね。
実はこの会社はビートルズのピクチャーディスク。(SGT.PEPPER'Sなど)
を製造したので
名前は知っておりました。
by tamachi (2006-01-08 16:51) 

parlophone

夜明けさん、ありがとうございます。

ああ、このジャケットがDIWから出たやつですね。
これはたしかによく見ますね。

>10年前で3枚セットの価格が10万下らなかったような記憶があります。

ひゅ~、すごい…。
そこまで人気のある盤だとは知らなかったなあ。
ありがとうございました^^
by parlophone (2006-01-08 20:23) 

parlophone

tamachiさん、どうもです。
JAZZもなかなかいいですよ~。
オリジナルはなかなか高いものが多くてむずかしいですが、
(なにしろ売れた枚数がビートルズの何百分の一、ひょっとしたら何千分の一かもしれませんからね)
とりあえず廉価な国内盤でちょこちょこっと聞いてみる、というのがいいかもしれませんね。

>この会社はビートルズのピクチャーディスク(SGT.PEPPER'Sなど)を製造したので

へえ、そうだったんですか。
知りませんでした~。
by parlophone (2006-01-08 20:28) 

Shaolin

> メトロノーム・レコードでジャズを出していたのですね

Metronome [Sw] があれだけ沢山の Jazz 録音をしてくれていたことに
我々ファンは感謝しすぎてもしたりないでしょう。

多くのアメリカ人 Jazz ミュージシャンがヨーロッパ巡業に訪れ、
その巡業中にフランス Vogue やスウェーデン Metronome が
現地で録音を残してくれました。特に Metronome の方は、
安直なジャムセッション形式ではなく、きちんと人選を行い、
的確なプロデュースを施すことで、当時まだアメリカでも無名に
近かったミュージシャンが名演を残すこととなりました。

件の「Overseas」もそうですし、Ernestine Anderson の「It's Time」も
Metronome 原盤ですね (彼女はヨーロッパ巡業から帰ってきてから、
現地の大評判もあってか、一躍アメリカでスターになりました)。
あと、裏「Overseas」として名高い (?) Freddie Redd Trio の「In Sweden」も
オリジナルは EP 3枚ですね。

その他著名ミュージシャンでは James Moody、Zooe Sims、Stan Getz、
George Wallington、Roy Haynes などが Metronome にリーダー録音を
残しています。これらの多くは Metronome でリリースされ、少し遅れて
アメリカの Roost, Savoy, EmArcy, Prestige などでリリースされました。
by Shaolin (2006-01-09 13:25) 

Shaolin

> ところでShaolinさんのブログにコメントしようとしたんですが、
> なぜかうまく認証されませんでした。

あれ、どうしてでしょうね。
TypePad アカウントを持っていればあらかじめログインして、
そうでなければ普通に書き込めばいいはずなんですが...
by Shaolin (2006-01-09 13:28) 

parlophone

Shaolinさん、どうもです。

>Freddie Redd Trio の「In Sweden」

おお、これは聴いてみたいですね。
Freddie Reddはブルーノートの諸作しか聴いたことありませんから興味が惹かれます。
なるほどMetronomeってときどき耳にするレーベルって印象しかありませんでしたが、重要なレーベルだったんですね!
ありがとうございました。
by parlophone (2006-01-09 17:09) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 2

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。